原因分析「プロセスネットワーク分析法(PNA)」の勘所
品質マネジメントシステムの原則に基づく原因分析法
株式会社 プロセスネットワーク
代表取締役 金子 龍三
1. はじめに
「なぜなぜ問答は修得が難しいので、簡単に習得できる原因分析法を」と品質保証部長等から言われ、「分析後に関係者から感謝される原因分析」、「これが真の原因だと関係者が悟り改善意欲がわく原因分析」を目指して開発したのがプロセスネットワーク分析法(PNA)です。
組織のすべての業務は(経営者の業務も、管理者の業務も、技術者の業務も)インプットをアウトプットに変換するプロセスとみることができ、組織の成果を出すためにはそれらの業務は相互関係をもっていてネットワーク状になっている。これはJIS Z 9900に記載されていたプロセスネットワーク(JIS Z 9900 4.7 組織におけるプロセスのネットワーク、及び4.8 品質システムとプロセスのネットワークとの関係)概念です。図にプロセス図および説明を示します。
図1 プロセス図および説明
2. PNAにおける分析範囲
価値を付加する仕事をするために、組織に存在している業務【プロセス】が分析の対象範囲です。製品実現プロセス(JIS Q 9004 7.製品実現 JIS Q 9005 9 製品・サービス実現)関係だけではなく、マネジメントプロセスも、管理者や経営者の責務に関係するプロセス(JIS Q 9004 5.経営者・管理者の責任、及び、6.資源の運用管理、JIS Q 9005 7 経営者の責任 8 経営資源の運用管理)も必要に応じて分析の対象になります。
3. PNAの概要
PNA法では概略、(1)分析課題の定義、(2)プロセスネットワーク(プロセスフロー以外に、プロセスマネジメントプロセス、プロセス能力調達プロセス)の調査、及び(3)プロセスネットワークの分析、(4)改善項目のまとめの順で分析を行います。実際にPNAを行ってみるとプロセスフローを調査し、分析しただけで原因が判明することもあります。開発業務の場合のプロセスフローと特定のプロセスの能力支援プロセス群を図に示します。
図2 プロセスフロー
図3 支援プロセス群
4. 分析順序概要
4.1 分析課題の定義と事実の確認
- 分析の対象となる現象を定義し確認します。例:出荷判定不合格(利害関係者もれ)。
- 発見工程 現象がどの工程で発見されたかを確認します。 例:出荷判定。
- 発見者 現象を発見した人が誰かを確認します。例:事業部長兼品質保証担当役員
4.2 プロセスフローの調査
発見プロセスから遡って実際に行ったプロセスとプロジェクトマネジメントプロセスを調査し、各プロセスのインプットとアウトプットを調査し(中間成果物を確認する)プロセスフロー図を作成します。
4.3 プロセスフローの分析
プロセスフローについて追跡可能性及び専門的観点から分析します。
各プロセスが欠落・不足した際にどのような現象が起きるかを知っていて、起きている現象がどの場合と類似しているかを識別し、当該プロセスの有無、あるいはプロセス内容不足を分析することが重要です。
例:結合検査工程でバグを修正したらディグレードが発生した。要件開発工程で、機能定義だけを行っており、データ要件及びインタフェース要件が欠落し、機能とデータとの関係が分析(要件分析のひとつ)されていない。機能だけ定義されていたので、設計工程でも機能設計を行い、データ設計、機能とデータとの関係の設計がない。非機能要件の定義と設計も抜けている。
4.4 課題定義と特定プロセスの能力支援プロセスの調査
現象を専門家の観点から、技術課題あるいは/及びマネジメント課題を定義し、どのプロセスが原因か特定し、そのプロセスについて能力支援プロセスを調査します。
例:例外条件、および異常条件について設計されていないし、テストされていない。状態遷移問題である。タイミングチャートだけを使用し要件開発、設計しており、状態遷移表の作成が抜けていたので条件もれが発生した。状態遷移設計技術が未熟で的確な技術修得者とは言えない(資源調達運営管理ミス)。テスト設計も欠落している。
4.5 プロセスネットワーク図の作成と分析のまとめ
これらの結果からプロセスネットワーク図を作成し、分析年月日を記入し、改善課題を列挙し(通常は5項目程度に絞る)、改善計画を策定します。
5. 原因分析力の向上のために
開発技術およびマネジメントについての体系的な知識の収集と知識資産の構築が分析を行うためには重要です。そのためには組織としてプロセス能力・資産の構築と、資源の運用管理(JIS Q 9004 5項、6項、JIS Q 9005 7項、8項)が重要な項目です。
6. 原因分析法の使い分け
PNAは、世の中に成果を出すための目的達成行動を対象とした原因分析技術です。しかし退職やノイローゼなどの衝動的な行為に基づく問題の分析には適用できません。この分野は心理的カウンセリングを用いた「なぜなぜ問答」の適用領域です。