CIJにおけるお客様満足度向上への実践的取り組み
株式会社CIJ
事業推進本部 キャリア開発支援室
榎田 由紀子
1. はじめに
当社は、ソフトウェア開発の分野で数多くの実績を作ってきた独立系ソフトウェア開発企業です。お客様のニーズに合った高品質かつ創造的なシステムやサービスをタイムリーに提供することで、CS(Customer Satisfaction:顧客満足)の向上を目指しています。昨年9月、当社は「ソフトウェア技術者のCS・PSマインド育成による顧客満足度の向上」活動を推進し、お客様満足と事業部の業績を向上させる成果を達成したことが評価され、日本品質奨励賞 品質革新賞を受賞しました。今回は、企業内の改善活動をトップダウンとボトムアップの両面から働きかけた当社の事例を紹介します。
2. PS調査による現状把握と活用
ソフトウェア開発では、プロジェクトメンバーの仕事への満足がそのプロジェクト全体の生産性や品質に大きな影響を与えることが知られています。お客様にご満足していただけるサービス/製品を提供するためには、プロジェクトメンバーの仕事への満足を向上することが必要です。そのため、当社では、PS(Partner Satisfaction:パートナー満足)の向上活動を推進しています。PSとは、ES(Employee Satisfaction:従業員満足)の概念を拡大したプロジェクトメンバーの仕事満足のことで、プロジェクトメンバーには、従業員、協力会社などプロジェクトに関わる全メンバーが含まれます。近年は、協業体制によるプロジェクト型業務が増えていることから、社員だけでなくプロジェクトで働くメンバー全員を対象としています。
現場のリーダは、プロジェクトメンバーの仕事への意欲がプロジェクト全体の生産性や品質に影響するということを体験的に理解しています。しかし、それがどのような要因に左右されるのか、また、どうすればコントロールできるのかということについては、あまり知られていません。そこで当社は、トップダウンアプローチとして、まず何が影響しているのかを測ることから始めました。PS研究会(*1 の支援を受け、日科技連による全社的なPS調査を2002年から2年毎に実施してきました。その分析の過程でPS診断グラフ(図1)を考案し、「仕事意欲・仕事満足・ストレス」の3つの指標によって、全社の組織やプロジェクトの状況がマクロに測定できるようになりました。このグラフは仕事満足と仕事意欲の2軸で構成されており、○●一つ一つはプロジェクトや組織を表します。○はストレスが低く良好な状態を、●はストレスが高く不調な状態を表します。○や●の大きさが大きいほど良好/不調の程度が大きいことを表します。調査結果から、プロジェクト間のバラつきが大きいことが明らかになっています。
図1 PS診断グラフ
次にプロジェクト間のバラつきの原因を調べるために因子分析した結果、影響力の強い因子が抽出されました。PSに影響するこれらの因子を使い、プロジェクトの状況を詳細に分析できるPS分析レーダチャート(図2)を考案しました。チャートの領域が外側に広がっているほど、プロジェクトのPSが高いことを表します。値が(+)の因子は、プロジェクトのPSを向上させており、値が(-)の因子は、PSを低下させていることを示しています。
図2 PS分析レーダチャート
PS診断グラフとPS分析レーダチャートを活用して経年変化を比較したところ、第2回調査(2004年)でPSが低下していたため、PSにもっとも影響がある「コミュニケーション」に注目し、PS研究会松尾谷氏の協力を経てチームビルディング研修を実施しました。また、新入社員研修やOJT指導員研修にもチームビルディング研修を取り入れた結果、第3回(2006年)の調査では仕事満足、仕事意欲は改善され、PSが向上しました(図3)。しかし、ストレスは改善と悪化に二極化しています。これは、新3Kと揶揄されるほどIT業界全体の職場環境が悪化していることが背景にあると考えられます。
図3 PS診断グラフによるPSの経年変化 拡大図
3. CSマインドとPSマインドの育成
当社は、PS調査は2年に1回、CS調査は1年に1回実施しています。これらトップダウンの取り組みは、全社の状況を把握し対策を考えるためには必要な情報です。しかし、トップからの指示だけでは、現場の問題解決への意欲は高まりにくく、会議等で「CS獲得こそが目標だ」「PSについて考えよう」と啓蒙を図りましたが、結果は望ましいものではありませんでした。
そこで当社では、次のような取り組みを始めました。一般的にCSは顧客側の反応であり、提供(現場)側としては受身的に捉えるところを、提供側であるプロジェクトメンバーにCSを評価させることを試みました。これを当社では「主観的CS」と呼び、この測定が自己満足に終わらないよう、第三者による評価結果との差異を確認するようにしました。このことで、現場のCSに対するマインドの育成を図ると共に、現在進行中のプロジェクトのCS向上も得られると考えました。また、CSを向上させるためには、ソフトウェア技術者のPS向上が重要であると考え、PSについてもプロジェクト内での測定活動を行いました。PSをプロジェクト内で定期的に測定することで、問題への対応が早くなり、PSの維持・向上が図られると考えました。
ある顧客と当社の間で、プロジェクト単位のCS相互評価を行いました。プロジェクト単位で、その顧客が評価したCSと、当社が自己評価したCSの差異を調査しました。その結果を、PS測定を導入しているプロジェクトと、PS測定を導入していないプロジェクトで比較した結果、PS測定を導入しているプロジェクト●は、導入していないプロジェクト●に比べ、顧客評価のCSと主観的CSの差異が少なく、しかも全般的に顧客評価のCSが高くなっていることがわかりました。このことから、CS・PSマインドの育成の効果が確認できました。
図4 測定活動のCSに与える影響
4. 今後の取り組み
企業の中では、品質や生産性の向上などの改善への取り組みが日々行われています。導入はトップダウンで進めたものの、現場では形骸化してしまう施策も見受けられます。現場が主体的に施策を導入していくためには、まず施策へ関心を持たせて、自ら考えさせ、マインドを育成する必要があります。ここで紹介した当社の顧客満足度向上への取り組みは、トップダウンによるCS・PS調査とボトムアップによるCS・PSマインドの育成が融合した取り組みです。まだまだ改善の余地は多々ありますが、これからも顧客満足度向上を目指して進めていきたいと思います。
(*1 PS研究会
PS研究会は、非営利の任意団体として2002年に活動をスタートしました。当研究会は、プロジェクト型の仕事環境における、人的リソースにとって良い環境やそのパフォーマンスについて学び研究し実践することが目的です。
参加メンバーの所属する組織や企業で実践し実証することに重点を置いて活動しています。メンバー自身が学ぶと同時に、メンバーを通して企業への貢献についても積極的に取組んでいます。