ソフトウェア品質知識体系ガイド-SQuBOK® Guideについて 第1回
SQuBOK® 編集チーム
はじめに
読者の皆さんこんにちは、SQuBOK®策定部会の辰巳、町田、池田です。
このたび、クオリティワンがWebマガジンに移行するのに伴い、SQuBOK®策定部会でもコーナーをいただきました。
全4回にわたって、2007年11月に第一版が刊行された「ソフトウェア品質知識体系ガイド-SQuBOK® Guide」について解説します。
こう書くと堅苦しく思われるかもしれませんが、新人を含めた初心者の方々向けに、できるだけやさしく解説していきますので、どうぞお気軽にお読みください。
第1回の内容
さて早速中身にはいりますが、この第1回では「SQuBOK®ってなあに?」というお話しから始めたいと思います。
SQuBOK®の体系図や具体的な技術は第2回以降で解説することにして、まずはBOK、そしてSQuBOK®についてのおおまかなイメージをもっていただければと思います。
BOKってなんだろう?
冒頭からSQuBOK®という単語が繰り返し出てきました。皆さんの中には、今までにPMBOKやSWEBOKという似たような単語を見聞きしたことがあるという方もいらっしゃることでしょう。
PMBOKは「Project Management Body of Knowledge」、SWEBOKは「Software Engineering Body of Knowledge」の略で、それぞれ「ピンボック」「スウェボック」と呼ばれることが多いようです。同様に、SQuBOK®は「Software Quality Body of Knowledge」の略で「スクボック」と読みます。
このSQuBOK®、PMBOK、SWEBOKに共通するのは"BOK(Body of Knowledge)"という部分ですが、BOKは日本語では知識体系と訳されています。
つまり、SQuBOK®はソフトウェア品質の知識体系、PMBOKはプロジェクトマネジメントの知識体系、SWEBOKはソフトウェアエンジニアリングの知識体系ということになるわけですね。
BOKとBOKガイド
もう少しBOKのお話にお付き合いください。
PMBOKやSWEBOKと呼ばれている書籍をよく見ると、そのタイトルに"Guide to the"がついています。例えば、PMBOKは"A Guide to the Project Management Body of Knowledge"(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)が正式な書籍の名称です。
BOKという言葉は「ある専門領域の知識の総和」という意味で、その分野の実務者や研究者がもっている知識全体を指しています。この膨大な知識の中から、一般的に認められたものを整理・紹介し、それらへ簡単にアクセスできるようにしたのがBOKガイドです。
ここでは簡単に、私たちの先輩達が地道に積み上げてきた"実績のある"ノウハウ、しかも現在においても生き残ってきたベストプラクティスを集めたものがBOKガイドであると理解してもらうといいでしょう。
BOKガイドは技術のカタログ
簡単な例を挙げてみましょう。
例えば、部屋のインテリアを改善したいとします。
地道にお店を回って調査しても良いでしょうが、様々な情報、しかもお勧め商品がたくさん掲載されたカタログが手元にあったとしたらどうでしょうか?
インテリアを改善するための整理された有益な情報が、部屋を出なくても入手することができます(それはカテゴリや一覧という形で整理されています)。
もちろん連絡先も記載されていますから、気になった情報についてはその詳細を問い合わせることができます。
カタログを活用すれば、お店を回るための交通費はかかりませんし体力もいりません。
これは初期の検討に非常に効率的です。
また、カタログが充実していれば、自分の知らなかった(思いも付かなかった)製品の情報も知ることができ、新たなアイデアを得ることもできることでしょう。
皆さんおわかりのとおり、技術調査というものは非常に大変です。
このようなときに、技術カタログがあったらどうでしょうか?
そして、そこにはすでに何らかの実績があるもの"だけ"が記載されているとしたらどうでしょうか?
詳細な情報が書かれている書籍や論文にアクセスできる手段が記載されていたらどうでしょうか?
きっと皆さんの調査作業は、高品質かつ効率的になるはずです。
そして、技術カタログに自分や組織が今まで知らなかった情報が載っていたら、新たな知見を得ることにもつながります。
SQuBOK®ガイドは品質技術のカタログ
前置きがずいぶんと長くなりましたが、ではSQuBOK®ガイドとはどのようなものなのでしょうか?
もちろん、名前が示すとおりSoftware Quality、つまりソフトウェア品質を専門に取り扱っていますが、他のBOKガイドと異なるのは日本国内の産学、つまりソフトウェアを開発する企業の現場担当者やソフトウェア開発の研究者が策定した日本"発"のものであるというところです。
これまで、ソフトウェア品質に関しては各人の頭の中に閉じたノウハウ、つまり暗黙知のものも多かったのですが、SQuBOK®ガイドではそれらを形式知化するとともに体系化し、日本で培われた技術や国内企業の固有技術などを数多く紹介しています。
また、米国を中心に策定されたPMBOKやSWEBOKは参考文献も米欧のものが中心ですが、SQuBOK®ガイドでは翻訳書を含め日本語のものを中心に紹介し、現場の方々が入手し易く、すぐ業務に役立てられるよう配慮しています。
"カタログ"では知りたいことに素早くたどり着けることが重要ですよね。
SQuBOK®ガイドでは、ソフトウェア品質に関する知識を、「品質の基本概念」、高品質なソフトウェア開発を達成するための両輪である「品質マネジメント」、「品質技術」の3つのカテゴリに大別して書籍の章に対応させ、更にカテゴリの中を知識領域、トピックへ詳細化する形でまとめていますので、必要な情報へのアクセスも容易です。
SQuBOK®ガイドの目的
このSQuBOK®ガイド(第1版)を策定するにあたり、策定部会では次の5つを目的として取り組みました。
<以下、引用>
1.品質保証に携わる方の育成に役立つものにする
2.ソフトウェア品質に関する日本の暗黙知を形式知化する
3.ソフトウェア品質に関する最新のテーマを整理し、体系化する
4.ソフトウェア品質技術の認知度向上を図る
5.ソフトウェア品質保証プロセスを確立したい組織の助けとなる
<以上、引用>
SQuBOK®ガイドは、決して「このとおりにしなきゃダメだ」というマニュアルの類ではなく、品質に関する活動に取り組む際の助けとなる情報を提供するものです。
第1版では目的1にあるとおり、まずは品質保証に携わるエンジニアを対象としていますが、設計やプログラミングに携わるエンジニアに無関係なものではありません。そのような方々においても、設計品質やプログラミングの品質を向上するための観点やヒントを得ることができます。
ソフトウェアの品質は、ソフトウェアプロジェクトにかかわる全ての人がそれぞれになんらかの形でかかわるものです。ソフトウェアテストや品質保証のエンジニアでなくても、是非参照していただければと思います。
終わりに
いろいろと説明してきましたが、SQuBOK®ガイドがどのようなものであるか、おおまかなイメージをもてたでしょうか?
次回からは、いよいよ詳しい中身に入っていきます。
よろしければ、出版されているSQuBOK®ガイドを手にとっていただき、次回までにさらりと目を通していただけるとより理解がすすむかと思います。