第4回世界ソフトウェア品質会議参加ルポ
日本アイ・ビー・エム株式会社
岡崎 靖子
2008年9月15日から9月18日まで、アメリカ・メリーランド州ベセスダのハイアットリージェンシーホテルで第4回世界ソフトウェア品質会議(World Congress for Software Quality、以降WCSQと表記)が開催されました。その模様を報告いたします。うれしいことに、日本からの論文2件がベスト・ペーパーとして表彰されました。
1. 背景
WCSQは、(財)日本科学技術連盟・ソフトウェア生産品質管理委員会(2007年9月にSQiPソフトウェア品質委員会と改名)、ヨーロッパの品質管理団体であるEOQ(European Organization for Software Quality)のソフトウェア部門、アメリカのASQ(American Society for Quality)のソフトウェア部門の3者が、アジア・アメリカ・ヨーロッパの各地域を代表し、5年ごとに各地域をもちまわりで開催しているソフトウェア品質の国際会議です。第1回は1995年6月にアメリカ・サンフランシスコのフェアモントホテルにて22カ国約300名が参加し、第2回は2000年9月にパシフィコ横浜にて29カ国720名が参加し、第3回は2005年9月にドイツ・ミュンヘンの工科大学機械学部にて30カ国約680名が参加して開催されました。第3回の時に、ソフトウェアをめぐる環境変化の速さから、今後は3年ごとに開催することとなり、本年第4回が開催されました。
2. 4WCSQ概要
初日は12件のチュートリアルがあり、2日目から4日目に論文発表が行われました。
(1)開会
4WCSQエグゼクティブディレクターのTaz Daughtrey氏(ASQ)の司会により、James Madison 大学学長のLinwood H. Rose氏が開会の挨拶を行いました。
(2)基調講演
論文発表の3日間で7つの基調講演が行われました。講演者(敬称略)は、Capers Jones(アメリカ)、Larry Constantine(アメリカ)、Watts Humphery(アメリカ)、Bernie Gauf(アメリカ)、勝丸泰志(日本・富士ゼロックス)、Gary McGraw(アメリカ)、Kurt Shneider(ドイツ)です。
(3)参加者
16カ国約250名が参加しました。アメリカが最多で155名、次いで日本が31名、第3位がドイツで7名。以下、カナダ、オーストリア、スイス、デンマーク、オーストラリア、中国、台湾、イタリア、ウルグアイ、ポーランド、フィンランド、イギリス、ハンガリーからの参加がありました。中国はビザの発給が遅れた関係で論文発表者・聴衆ともにほとんど全員がキャンセルしており、聴衆が1名参加しているだけでした。インドからの参加者はいませんでした。
(4)論文発表
論文発表は63件で(キャンセル分は除く)、アメリカが最多の30件、次いで日本が19件、第3位がドイツ5件でした。オーストリア、イタリア、イギリス、フィンランド、スイス、ハンガリー、ポーランド、台湾、オーストラリアからも各1件ずつ発表がありました。
日本からは従来のように実務に基づいた内容が多かったですが、研究論文もいくつかありました。アメリカやヨーロッパの論文にはコンセプトの整理や提示に留まる発表がある一方で、チュートリアル講師を兼任している発表者やコンサルタントの発表者が多いためか、ソフトウェア工学の歴史や基礎をきちんと認識した上での発表も多いと感じました。4WCSQ全体としては研究論文の数は少なかったです。
発表テーマは、テスト、メトリクス・計測、プロセス改善、アジャイルという常連が多いものの、統合的品質管理、改善、ユーザ満足、教育・人、エンジニアの認定、レビュー、セキュリティー、CMMI、新成熟度モデル、品質保証組織、アウトソーシング、オフショア、マネージメント、ソフトウェア品質工学、プロセス、要求分析、フォルトのメカニズム、DSM、IT業界への警鐘(アメリカ医療現場の実態、アメリカ大学の実態)をテーマにしたものまで、とても幅広いと感じました。個人的には、IT業界への警鐘をテーマとした2件の発表が、あらためてITと社会との深い関わりを再考するきっかけとなり、印象に残っています。
(5)表彰
ベスト・ペーパーは、藤井拓氏(オージス総研)の"Design Quality with Different Design Strategies in Agile Software"と誉田直美氏(日本電気)の "Beyond CMMI Level5: Comparative Analysis of Two CMM Level 5 Organizations"が受賞されました。ベスト・プレゼンテーターはTimothy C. Kasse氏(アメリカ・Kasse Initiatives、 LLC) の"Twenty Points for Quality and Process Improvement - An Update Look at the Principles from Deming and Crosby"が受賞されました。
また、4WCSQ開催準備への協力者に感謝の表彰が行われ、日本からは飯塚悦功氏(東京大学)と福井信二氏(オムロン)が表彰されました。
(6)閉会
飯塚悦功氏(東京大学)から、WCSQの歴史と今回の4WCSQの総括が紹介され、次回5WCSQは2011年9月から11月のいずれかの時期に中国・上海にて開催することが発表されました。論文募集案内は2010年3月、アブストラクトの締め切りは2010年9月の予定とのことです。最後に、残念ながら4WCSQに出席できなかった居 徳華氏 (中国・上海華東理工大学)から届いたパワーポイントの資料とボイスレターを使って上海の紹介が行われ、和やかなムードのうちに閉会となりました。
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