4-1 今年度のソフトウェア品質管理研究会を振り返って
株式会社インテック
池田 浩明
第24年度ソフトウェア品質管理研究会(通称:SQiP研究会)は、昨年の4月から約一年間にわたり活動してきました。今年度も2月下旬の分科会成果発表会をもって活動を締めくくります。本稿では一年間の研究会活動を振り返ります。
今年度のテーマは「考える現場」作り
競争力のある優れた製品を生み出す組織には必ず強い現場があると言われます。ソフトウェアもまたしかり、現場での創意工夫が盛んに生まれ、その提案が活かされる組織風土、これが「強い現場」、「考える現場」の必須条件と言えるでしょう。
今年度の研究会では、このような現場のあり方を深く考え、それを実現する管理や技術を学び、研究することをねらいとして、『攻めのソフトウェア品質を実現する「考える現場」作りのために~ボトムアップ品質を深耕する~』をテーマに掲げました。
マネジメント面はもちろん、エンジニアリング面もさらに充実
研究会には50の企業や団体から80名が参加しました。年間を通じて8回の例会を行い、さらに今年度は学習の一環としてソフトウェア品質シンポジウムにも参加しました。例会では、午前中は全員で特別講義を聴講し、午後はテーマ別の分科会にわかれて学習や研究を行いました。特別講義、分科会ともにマネジメント面はもちろんのこと、数年来のエンジニアリング面の強化も奏功し、充実した良い内容であったと思います。
特別講義 : 様々な視点から品質への気づきを
品質に取り組むには様々な視点が必要です。人的側面、プロセスやマネジメントの側面、設計や検証などエンジニアリングの側面などです。今年度の特別講義は、様々な視点で基本から最近の動向まで注目すべき話題を網羅し、充実した内容であり、多くの気づきが得られました。
今年度の特別講義テーマ
- 「体験論的ソフトウェア品質保証」
奈良 隆正氏(NARAコンサルティング) - 「電脳軟件製品の品質保証を巡る人間的諸問題」
菅野 文友氏(系統技術研究所) - 「現場力を高める見える化手法プロジェクトファシリテーション~モチベーションアップのツールと場づくり~」
平鍋 健児氏(チェンジビジョン) - 「ソフトウェアテストの実際と基本」
高橋 寿一氏(ソニー) - 「不採算プロジェクト撲滅~富士通の3年間の活動内容~」
北岡 良一氏(富士通) - 「利用品質を高め顧客に喜ばれるソフトウエア開発手法~人間中心設計ノウハウ導入のすすめ~」
鱗原 晴彦氏(U'eyes Design) - 「組み込みシステムにおける効果的な派生開発の進め方」
清水 吉男氏(システムクリエイツ)
分科会 : 実践・研究と学習の両面で大きな成果あり
参加者の幅広い要請に応えられるように今年度も研究・実践重視の5つの分科会と学習重視の2つのコースを設けました。いずれもソフトウェア品質を核とし、分科会全体としてマネジメントからエンジニアリングまでの領域をカバーしています。
各分科会では、今年度の活動を次のような論文にまとめています。論文タイトルをざっと眺めると、従来のやり方をそのまま鵜呑みにせずに一度疑ってみたり、新たな視点でさらに一歩踏み込んだ内容が多く、まさに「考える現場」作りという今年度のテーマに沿う活動であったと言えるでしょう。
今年度の分科会論文タイトル
- 第1分科会:ソフトウェアプロセス評価・改善
・最適なレビュー実施と現場が喜ぶメトリクスの研究
・プロセスは定着していますか~プロセスの定着を実感できるメトリクスの提案~ - 第2分科会:プロジェクトマネジメント
・今まで普通に行われていたコミュニケーション対策を疑う - 第3分科会:組込みソフトウェアの品質作り込みと評価
・組み込みソフトウェア開発における品質向上への取り組み~要求仕様書に起因する下流工程での不具合ゼロに向けて~
・組み込みソフトウェアの短納期開発における正しい手の抜き方~使える「過去トラ」に向けて~ - 第4分科会:ソフトウェア・ユーザビリティ
・満足度の構造およびその評価手法の提案
・プロトタイピング手法の効果的な選択方法の提案~我が社の交通費精算システムは使いやすくなるのか?~ - 第5分科会:ソフトウェアテスト
・要求仕様書におけるテストエンジニアの視点を活かした欠陥検出方法の提案
・WEBシステムにおける画面遷移図表 表記法の提案と効果的なテストケースの作成
各分科会の成果論文の内容は、研究会のWebページに公開されていますのでご一読ください。
http://www.juse.or.jp/software/study.html(今年度の論文は3月以降公開予定)
今年度の参加者からは、「品質についてこんなに深く考えたのは初めて」「日頃の悩みが解決できた」「品質を基礎から体系的に学べた」「他社のメンバと仲良くなって世界が広がった」といった意見や要望が数多く寄せられました。来年度も参加者の要求に応えるべく、新たに派生開発の分科会やソフトウェアテストの演習グループを設けるなど内容の充実を図っています。関心をお持ちの方は日科技連事務局までお問い合わせください。