~ソフトウェア品質の向上とそこに関わるすべての方へ~ Software Quality Profession

1.品質

顧客に聞く。経営に効く。気になる品質は?

テラ・システム株式会社
代表取締役 松原 弘治

1. はじめに

 私の会社は、主なサービスとして障害者の方の地域生活を支援する事務所に対して、業務全般を支援するシステムをインターネットブラウザから利用する形で提供しています。
いわゆるSaaS(Software as a service)にあたるかと思います。派遣や請負開発もしていますが、現在は全てをSaaSへシフトしていく途上という感じです。
ここでは、お客様からの意見等を通じてどういった品質特性がどういった評価を得ているか、ということをお話してみたいと思います。

2. 提供側の事情から ~SaaSでシステムを提供する~

 簡単に、障害者の方の地域生活支援について説明しますと、介護保険に類似した仕組みです。地域で障害者の方が暮らしていくサービスを提供している事業所に対して、国がサービスの対価を給付するといったものです。私の会社で提供しているソフトは、国に対する請求の計算と介護のコーディネート管理を主な機能としています。
このサービスを、自分たちでシステム化して提供するにあたっての状況、環境は以下のようでした。

  • 私自身が、障害者の地域生活支援について非常に詳しい。
    (ヘルパー、コーディネーター、事業所立ち上げ等の実経験がある)
  • 会社の信用が大してない。
    (起業まもなくで資本金1千万では大きな開発案件はこない)
  • 会社のマンパワーがない。(メンバー5名)
  • 社内メンバーにネットワークセキュリティのエキスパートがいる。
  • 障害者福祉サービスは全国共通の仕組みなので、対象地域が日本全国。
  • 障害者福祉サービスは仕組みや関連する法律が頻繁に変わるので、それに合わせてすばやくきめ細かいメンテナンスが必要。
  • システムのお客様にあたるサービス提供者は、小さな事業所が多い。また非営利目的で事業をしている場合も多いので、多額の経費は出せないケースがほとんど。

 こういった状況を解決するのにSaaSが持っているといわれるいくつかの特徴は、非常に費用対効果が高いであろうと考えました。

特徴1: Webブラウザを利用してシステムを提供するため、インストールを必要とせず、またお客様と同じ画面、現象を提供側である会社でも見ることができる。
特徴2: プログラムがサーバー側にある。
特徴3: プログラムを購入してもらうのではなく、利用料をいただく形でシステムを提供する。
効果1: 初期導入が容易で早くなる。
効果2: プログラム変更、バクの修正等もサーバー側で修正するだけで完了する。
お客様の事業所に直接訪問する必要が減るので遠距離でも提供しやすくなる。
効果3: お客様のコスト削減。また必要な機能、運用規模に応じてシステムの提供を増減しやすい。

3. 計測してみる ~品質特性に当てはめてみた~

 実際に、SaaSの仕組みでシステムを提供してみると、管理の容易さや遠隔地のお客様の増加等提供する立場としては、当初予想した通りに近い効果を得ている実感がありました。しかし、お客様の側から見てはたしてよいイメージがあるのか、あるいはそうだとすればどの部分がよいと感じているのだろうかとの疑問がわきました。ただなんとなくヒアリングしても漠然とした評判を聞いたような形になってしまうともったいないので、いいタイミングで私が参加していた社外コミュニティの集まりでISOの品質特性の話が出ていたのを、「これが面白い」と思い、かみくだいた形の質問を用意しそれを利用してシステムの評価をして見ました。
ご存知のように、ISO/IEC9126-1:2001では、ソフトウェア品質を示す特性とそれをさらにブレイクダウンした品質副特性を定めています。ヒアリングは、事業所の業務上のスタイルみたいなものがありますので、偏らないよう30社ほどにお願いしました。
顧客にとっての重要度、顧客評価はヒアリングの結果を、SaaS貢献度は提供側の社内評価で、3段階評価にしてみました。

拡大図

4. 結果から

  • 業務知識が、ある程度評価に結びついていると思われるもの
    機能性の副特性である合目的性、標準適合性や信頼性、保守性で比較的高い評価をいただいていることがわかりました。これについては、システムの特性より、私や担当エンジニアが、実際の業務経験や業務知識を持っているのに起因するものではないかと考えています。また、ヒアリングは、提供システムについての評価をお願いしたのですが、システムの性能ではなく例えばPCの操作やお客様の業務上のアドバイスに対しての評価が高いために満足度が高いという事例が思ったよりも多かったと思います。
  • システム提供側の力点と顧客満足度にずれがあると思われるもの
    ある程度予想はしていましたが、例えば機能性の副特性である正確性などは、不具合が出ないのは当たり前で、数の問題でなく、不具合箇所が業務上どれだけ重大かという問題でそれも回復が早いと不具合が出ないより全体の満足度がむしろよくなる場合さえあります。
    移植性の副特性である設置性、共存性や保守性の副特性である試験性などお客様に見えにくい特性は、評価の高低以前に評価の対象にもなってないように思われます。機能性の副特性であるセキュリティにあたる所などは、かなり力を入れて高レベルなものを提供しているのですが、ある程度の評価はあるものの高の評価はほとんど無く、逆にどこからでも見られるようにしてくれといったセキュリティとは矛盾する要求があったことも少なからずあります。
  • SaaSの貢献度が高いと感じられたもの
    品質特性から見てもSaaSがよいと思っていた保守性、信頼性などでは、副特性の試験性など例外もありますが、全般的には比較的顧客の評価が高く、また、顧客の評価は低いですが移植性に関しては、システム提供側としてのコスト低減、効率性を実感しており、この方式を採用した効果はかなりあると考えています。

 質問も品質特性にうまく該当するものを作成できたかは自信ないです。しかし、ざっくりとした調査ではありますが、漠然とした実感と実際にお客様が思っていることのずれを認識するにはとても役立ったと感じました。精度、粒度はともかく実際に計測することの大切さを実感した次第です。

5. おわりに

 もともと自分なりに、システムはこういうものを提供すれば、と思っていたのを簡単にまとめると、お客様が

  • 使うとよさそうと思う
  • 使ってみようと思う
  • 使ってよかったと思う
  • ずっと使ってみてよかったと思う

の四つです。
経営というのはある意味、この四つをどれだけコストを掛けず質を落とさず叶えるかにかかっている気がしています。
今回の試みは、すでに利用しているお客様にお願いしたものなので主に、「使ってみて」「ずっと使ってみて」の部分についての評価と思いますが、実際にシステムやサービスが製品として成り立つには、「使うとよさそう」「使ってみよう」の部分もとても重要です。これはコストの問題と、あと品質特性でいえば使用性、機能性、信頼性、効率性などを可視化して、サービス利用を始める前に伝えることができるかがとても大切な要素となります。機会があればここの部分についても何らかの形で、想定ユーザーの意識を知る試みができればと考えています。

プロフィール
松原 弘治(まつばら こうじ)
テラ・システム株式会社 代表取締役
福祉分野での業務IT化を研究努力しています。
福祉の現場では、介護や面接など人でないとできない仕事が多々あります。
一方で昨今、事務の多様化増加等で人でないとできない仕事へマンパワーを割けなくなる傾向があります。人でしかできない仕事を、ゆとりを持ってできるようコンピュータの活用方法をこれからも探究していきたいです。
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