「SQiPシンポジウム2009」へ参加してみよう!
ソフトウェア品質(SQiP)シンポジウム2009委員会委員
永田 哲
不況の時はユーザも品質問題により厳しくなります。競争に勝つためには他社に先んじなければなりません。 開発においては当然ながらあらゆる無駄を省いて開発効率を上げる必要があります。銀の弾丸はないにしても、これまでの路線の延長ではなく、ソフトウェアの開発プロセスにも「変化」を持ち込まないと生き残るのは難しくなっていくはずです。しかし多くの組織が閉塞感を感じているのではないでしょうか。
今年の「ソフトウェア品質(SQiP)シンポジウム」のテーマは「現状打破~品質で未来を勝ち取る~」です。
これまでの開発プロセスの改善活動を振り返り、「変化」を取り入れようとしている組織、そして設計、テスト、プロジェクトマネジメントに携わる人に啓発的な講演やチュートリアル、論文発表を多数用意しています。
この記事は、CMMの開発者でありアジャイル手法の研究者でもあるカーネギーメロン大学のMark Paulk博士の基調講演とチュートリアルを中心に9/8,9,10の3日間に渡って開催されるシンポジウムの内容を紹介しています。
1. Mark Paulk博士の基調講演、チュートリアルとオンサイト・セミナー
1-1.Mark Paulk博士の略歴:
1987~2002年カーネギーメロン大学(CMU)のソフトウェアエンジニアリング研究所(SEI、Software Engineering Institute)に在籍されました。その間、1990年に発表されたSW-CMM(Capability Maturity Model for Software)の作成チームの中心メンバであり、Capability Maturity Model: Guidelines for Improving the Software Processの主著者でもありました。1992~95年は、プロセスアセスメント標準であるISO/IEC15504の共同プロジェクト責任者でした。
現在はCMUのITサービス認定センター(ITSqc, IT Services Qualification Center)のシニア・システム・サイエンティストとしてITサービスの調達モデルを研究(調達側とクライアント側のベスト・プラクティス基づいた実践的研究)されています。同時にご自分のコンサルタント会社でモデルの適用も実践されています。
CMUにおける講義の他に数多くの講演を行なっていますが、そのコース内容は「ソフトウェアプロセスの管理」、「ソフトウェアエンジニアのための統計的手法」、「成熟したプロジェクト管理」などCMM/CMMIベースも多いのですが、最近のアジャイル手法に関した「XP入門」、「Scrum入門」、「アジャイル手法の最適方法」と非常に広範囲です。
1-2. 基調講演について
ソフトウェア関連業界では、開発プロセスの継続的な改善モデルとしてCMM/CMMIは広く受け入れられています。CMM/CMMIは、あくまでもモデルであり標準ではないと知りつつも、プラクティスや成果物例をできるだけ取り入れようとするSEPG(Software Engineering Process Group)の張り切り過ぎにより現場に受け入れられなかった例もあります。基調講演では、このような組織の人々も含めて成熟し(飽和したのではない)、常に競争力を保つためにいかにリスクを鑑みて漸進的な、あるいは改革的な改善策を採るかという正しいモデルの使い方を指南していただけます。
1-3. チュートリアルについて
CMMIのレベル4あるいは5と認定されている組織の数は世界中で増えてきましたが、一方でCMMIの高レベルにある企業にオフショア開発して失敗した話はよく聞きます。筆者の周りにも、発注側が真に「高い成熟度」を理解して、納入成果物の品質および進捗に関する測定データの提供を供給者と合意すべきであった、という例がありました。
組織的に定量的/統計的管理をして常に品質とプロセス実績の目標を達成するにはどうすればよいのか?更に、組織がこの達成能力を高めるための改善策を展開するにはどうすればよいのか?これらの「どうすればよいのか(how)」を成功事例と失敗事例を交えながら語っていただきます。
1-4. オンサイト・セミナーについて(シンポジウムには含まれていません。文末の【注】を参照。)
日本でアジャイルな開発手法は、まだそれほど導入されていませんが、アメリカではこの10年ぐらいの間に短納期、かつ仕様の未定や変更が多いプロジェクトでアジャイルの採用は増加して、生産性が2~10倍上がったといいます。10人以下程度の少人数開発チームだけではなく、2005年ぐらいからCMMIレベル5の組織が更なる生産性向上のための開発手法としてアジャイルを採用して成功した例が出てきました。CMM/CMMIは、もちろん開発手法に中立なのですが、比較的大組織向きのため基本的開発手法としては(部分的イテラティブを含んだとしても)ウォータフォール型ですからアジャイルとの統合は意外という気がします。今や400人規模のアジャイルもアメリカでは特別ではないという話を聞きます。変化してきているわけです。
CMMIの改善を進めているSEIから昨年の11月に「CMMI or Agile: Why not Embrace Both!」という報告書が両方の歴史を振り返りながら、これらの統合をどう進めるべきかについて提案しています。未だにほとんどのCMMI側の人たちがアジャイルに興味を示さない中で2001年にすでにPaulk博士が注目していた、という記述が載っています。
このように先見の明がある博士から「アジャイルとCMMIの両立性」というホットな話題について詳しく聞くことができるこのセミナーは大変にお買い得です。
2. 林先生の特別講演「ル・マンで体験、工学の楽しさと奥の深さ」
あのル・マンで有名な林 東海大特任教授から、「ル・マンで体験、工学の楽しさと奥深さ」というテーマで講演が行われますが、興味のある大きな目標を持った「物づくりの楽しさと深さが若い人を育てていく」というお話は分野を問わず大きな感動と教訓を与えてくれるはずです。
3. 新企画の半日チュートリアル
2日間のシンポジウムの前に、新しく午後半日のチュートリアルが加わりました。これまで評判の高かったコースやシンポジウムでこれまで扱われなかった内容を半日伸ばしてしっかりやりましょう、という企画で新人のみならず中級以上の方々にも聴きごたえのあるコースを6本程準備中です。
またソフトウェア品質や開発効率の改善に関する手法の提案や既存の手法や技術の適応事例が「経験論文」や「経験発表」として発表されますので、自分の組織やチームでも実践したくなるものが必ずあるはずです。1日目の終わりの意見交換の場であるSIGは昨年と違って懇親会とは別でより充実したものになるはずです。2日目の最後は例年通りパネルディスカッションと表彰で締めくくられます。
不景気の時は人材育成と来る景気回復時にダッシュをかけるための実力を養う絶好の時でもあります。ただ経費を抑えるだけで、このような価値あるシンポジウムの参加に金を出さないような組織は長続きしません。
あなたが管理者なら若い人も中堅もこのシンポジウムに参加させましょう。もしそうでなければ上司を説得して仲間とぜひこのシンポジウムに参加しましょう。
【注】オンサイトセミナーに関するお問い合わせ先
財団法人日本科学技術連盟 教育推進部 第三課 SQiPシンポジウム担当
TEL:03-5378-9813/FAX:03-5378-9842/E-mail:sqip@juse.or.jp
※お申込みは先着順となりますので、早めにご連絡ください。