ソフトウェアライフサイクルからSQuBOK® を読み解く 第3回
株式会社日立システムアンドサービス シニアコンサルタント
古賀 惠子
日本ユニシス株式会社 品質保証部
大川 鉄太郎
株式会社ニルソフトウェア シニアコンサルタント
河合 一夫
第3回の内容
連載3回目は,「ライフサイクルと品質技術」です.品質技術には様々なものがあります.
ソフトウェアライフサイクルにおいて品質技術をどのように使えば良いのか,古河課長と熊川さん[第1回「本連載の進め方」]に語って貰います.
ライフサイクルと品質技術
熊川さんは,自社のソフトウェアライフサイクルプロセスが世の中の標準とどのように整合しているか,SQuBOK® を使って報告することができました.そんな,ちょっぴり鼻がぴくぴくしていた熊川さんですが,そんな時に古河課長に呼ばれました.
「熊川君,君もプロセスのことが大分わかって来たようだね.ところで今度,A社にソフトウェア開発を発注するのだが,発注仕様で要求すべき品質のレベルとそれを実現するための品質技術に関する要求をまとめてくれないか.」
「品質レベルですか?」
「そうだよ.製品とプロセスの具体的な指標を目標値として示してほしい.」
熊川さんは,またまた頭を抱えてしまいました.でも今までとちょっと違うのは,彼はSQuBOK® の使い方が分かってきたということです.
「課長,それはソフトウェアの測定や評価について要求をまとめるとういことですね.」
「そうだね.でもそれだけではなく,ソフトウェアの品質技術を考慮して,それに沿ったメトリクスとその具体的な基準,すなわち数値目標を決めて欲しい.」
「そういえば,前にB社に開発を依頼したときは,具体的な品質に関する目標を指示しなかったため,受入れ検査で不良が大量に発生し,結果として4週間も納期遅延して酷い目にあったな.そのうえ,稼動後も品質が不安定でお客様に大きな迷惑をかけてしまった.あんなことを二度と繰り返さないために,明確な品質レベルの要求が必須なのだな.」
SQuBOK® では,カテゴリ2のソフトウェア品質マネジメントにおいて,ソフトェアの開発工程に沿って"プロジェクトレベル(個別)のソフトウェア品質マネジメント(2.13~2.17)"として,その内容が解説されています.また,それに対応した形で品質技術が第3のカテゴリの"ソフトウェア品質技術"に記載されています.そこでは,ソフトウェア開発の各工程に対応した代表的な品質技術が取り上げられています.
熊川さんはSQuBOK® を開きながら,開発を依頼するシステムが必要とする品質レベルを基に品質要求仕様を作り始めました.
「品質計画,要求分析,レビュー,テスト,品質分析・評価,運用・保守の各工程のマネジメントと技法が掲載されているので,これらを活用してメトリクスを決めればよいな.」
熊川さん,まずはソフトウェア品質マネジメントの各知識エリアの内容を参考に,A社に要求すべき品質要求を検討することにしました.
「今回は品質計画,レビュー,テスト,品質分析・評価とそれらのメトリクスについて要求しよう.」
熊川さんは,品質要求として以下のようにまとめました.
(1)品質目標の設定:具体的なメトリクと目標値は,参考文献の「TS X 0111-2第2部:JIS X 0129-1による外部測定法」を参考に信頼性や効率性のメトリクスを決めて要求する.具体的な目標値は自社の実績から決める.
(2)方針:品質を作りこむために,どのようなプロセス,アーキテクチャ,基準等を採用するか方針を定めることを要求する.
(3)レビュー:レビュー計画では,レビューの詳細な実施方法は任せることにし,A社との共同のレビューはインスペクションを要求することにしました.レビューのメトリクスは,レビュー対象の規模当たりの不具合の摘出率とする.
(4)テスト:テスト計画では,同値分割や境界値テストの実施を要求しました.具体的な指標として,プログラム規模あたりのテスト項目件数,異常値テストの割合,プログラム規模あたりの不具合件数の目標値を自社の実績からを設定して要求する.
(5)報告:それぞれの工程の完了時には計画通りに完了したことの報告を,最終的には総合的な品質の評価を提出してもらう.
ここまでまとめて,古河課長にみてもらいました.
「テストの進捗マネジメントの部分が欠けているな.SQuBOKのテスト進捗マネジメントを参考に,この要求に追加して欲しい.また,A社から納入されたソフトウェアの受け入れテストについても追加して欲しい.」
熊川さんは,テストカバレッジとテストの進捗と不具合の収束状況の管理を追記しました.また,納品されたソフトウェアの受け入れテストに関しては,新規システムなので全面的な支援を要求することにしました.
こうして熊川さんはSQuBOK® とその参考文献,自社の実績を使いながら,知恵を振り絞ってA社に要求する品質目標とそのレベルをまとめることができました.
次回は,それぞれのプロセスがうまく行われているかを確認する「ライフサイクルにおけるプロセス評価と改善」です.