「混乱からの脱出~ XDDPで現場は甦った~」
(株)デンソー技研センター
古畑 慶次
開発現場から見たXDDP
我々は、XDDPの導入を決め、試行プロジェクトにおいて、ある程度の手応えを得ました。実際に現場に導入してみて、XDDPについて感じたのは以下の3点です。
- (1)プロセスが極めて合理的である
XDDPは、派生開発を、変更と追加というタイプの異なる2つのプロセスに分け、それぞれの要求を実現する最適なプロセスと成果物を提供しています(図:XDDPによる派生開発)。特に、変更のプロセスでは、変更仕様とその影響範囲の抽出を表記法を工夫したり、レビューをうまく活用することで、設計者の思い込みや勘違いを最小限に抑えます。XDDPは、要求を実現するという観点から、必要なプロセスを層別し、整理した極めて合理的なプロセスと言っていいと思います。
- (2)これまでの現場の問題に的確に対応している
多くの組織では、テストでのバグや後戻りが頻発しています。XDDPは、これらの問題の根本原因を解消するプロセスと成果物で構成されています。それはXDDPを導入したプロジェクトの品質と生産性から判断できます。我々の試行プロジェクトでは、従来の開発と比べて、テスト工程での不具合発生率65%減、生産性1.3倍という結果を得ました
(図:XDDP導入による効果)。
- (3)トヨタ生産方式の考え方にマッチしている
トヨタ系のメーカーとして感じるのは、大野耐一氏が考案したトヨタ生産方式(以降、TPS:Toyota Production System)の考え方によくマッチしているということです。これは、いくつかのプロジェクトで実際に取り組んでみて気づきました。TPSは、ムダの徹底排除とプロセスの合理性を追求した生産方式ですが、その点では、XDDPも同じ思想で作り上げられた開発プロセスと言えます。
また、TPSでは、常にプロセスを変化させること(継続的改善)が求められます。“時代の変化を見据え、お客様の要求にあわせてプロセスを変えていく”、この発想により、TPSは製造現場を“強靱な生産システム”へと変貌させます。
これは、XDDPでも同様です。派生開発では、毎回、要求や納期、担当者が変わるので、前回のプロセスをそのまま使うわけにはいきません。さらに、派生開発では開発期間が短いので、要求を実現する的確なプロセスが必要です。XDDPでは、PFD(Process Flow Diagram)を使ってプロセスを設計し、こうした変化に対応します。
現場展開の考え方 ~「イノベータ理論」にもとづく改善戦略 ~
XDDPについては、その技術もプロセスも理解しました。また、試行プロジェクトにより、現場への効果も確信できました。あとは、“開発現場の技術者にどう納得して取り組んでもらうか”が大きな課題でした。
その時、参考にしたのが、エレベット.M.ロジャーズの「イノベータ理論」です。イノベータ理論では、「普及率16%を超えた時点でイノベーションは急速に普及する」(普及率16%の論理)としています(図:普及率16%の論理)。そこで、XDDPを一つのイノベーションと捉え、ロジャーズの採用者分布曲線に従った展開を今回のプロセス改善のコンセプトとしました(図:ロジャーズの採用者分布曲線)。つまり、全体の底上げを狙うのではなく、イノベータから始め、アーリーアダプタを育て、そして、アーリーマジョリティへとXDDPを順次展開していく戦略をとったのです。
全体の底上げによる展開も考えましたが、推進側のリソースが限られているため、現場全体へは十分な対応はできません。しかし、普及率16%の論理に基づき、最初は、2.5%のイノベータを対象にし、次にアーリーアダプタに切り替えていけば、推進側のリソースが十分ではなくても、XDDPを使いこなせる技術者を育てることは可能です。そして、そうした技術者が先行して育てば、彼らと一緒に展開活動を推進していくことができるのです。現場の技術者を指導者に育て、彼らと共に現場に“教え合う文化”を醸成する。まさに、これは、少人数のスタッフで大組織のプロセス改善に立ち向かう我々にふさわしい方法でした。
そこで、まず、全体の16%の普及率を目指し、次のようなステップで進めました。
Step 1 : 関心のある人から導入 | (イノベータ) |
Step 2 : リーダーを育成 | (アーリーアダプタ) |
Step 3 : 草の根活動へ展開 | (マジョリティ) |