ソフトウエア品質「歴史学」のすすめ
元 日本電気株式会社
笹部 進
5. ソフトウエア品質知識体系の活用
前章で述べた知識情報の「理解の壁」を取り崩すためには、その知識情報が誕生した時代背景や、他の知識情報との関連を知ることです。このためには、その知識情報を取り巻く客観的な事実を明らかにし、他の知識情報との関連性を明らかにしていく努力が欠かせません。時間的な分析だけではなく、地理的、文化的背景を含めた総合的な分析が必要です。
分析のための情報源は、その知識情報に直接携わった関係者による「原典」に、できるだけ当たると良いと思います。「原典」には、第三者によってフィルター(取捨選択)されずに残っている貴重な情報があるからです。
ソフトウエア品質の知識情報の例をご紹介しましょう。2007年に発行された「ソフトウエア品質体系ガイド-SQuBOK Guide-」です。このガイドは、5階層の構造でまとめられています。第4層と第5層は、独立した個別の知識情報に対応していますが、上位の第1から第3層までは、該当する下位の知識情報に関する背景説明や、他の知識情報との関係が述べられています。特に、海外のやり方との対比説明によって、日本の取り組みの特徴や発展経緯が理解できるようになっています。
前述のTQMとソフトウエア成熟度モデルは、知識体系上は、別の知識項目として分類、整理されています。しかしガイドブックの限られた紙面の中で、両者の時代的背景や関連性についても述べられています。
SQuBOK Guideを百科事典的に、ある特定の知識を知るために利用することもあるでしょう。しかし、その知識を必要とした背景や、複数の知識相互の関係を合わせて通読し、全体像を理解することをお勧めします。言い換えれば知識情報を噛み砕いて理解し、現在、各自が抱えるソフトウエア品質の課題に照らし合わせて、知識情報を十分に読み解いてほしいと思います。
6. まとめ
当たり前のことかもしれませんが、日本のやり方を理解するには、海外のやり方を見て自分たちのやり方と対比してみると良いし、現在の問題を理解するには、歴史を振り返ってみると良いと思っています。地理や文化も含めた、いわばソフトウエア品質に関する「歴史学のすすめ」を提案いたします。
参考文献:
1)ソフトウエア品質知識体系ガイド-SQuBOK Guide-、SQuBOK策定部会・編、オーム社、2007
2)全社SWQC活動調整委員会、水野幸男(監修)「ソフトウエアの総合的品質管理 NECの
SWQC活動」日科技連出版社、1990
3)ハンフリー「Managing the Software Process」、SEI Series of Software Engineering、1989