勉強会のつくりかた
株式会社ACCESS フロントエンド事業部
主任 松木 晋祐
【主催者として】
「勉強会」を主催するとき、テーマ以外に何が必要でしょう。ひとつは催しそのものを引っ張る役の人。これは講師であったり、発表者をアテンドする司会であったりその形態は様々です。今回のように、主催者が講師を兼ねる例も少なくありません。ひとつは催しの告知方法。これに関してはここ1、2年でウェブ上の告知、スケジュール管理ツールが充分に実用レベル、かつ気楽に使えるようになってきましたので、現在ではほとんど問題にならないかも知れません。Twitter も自分と興味を共有している人と繋がっているという点で、とても強力な告知ツールでもあります。
テーマも決まり、講師の段取りもついていざ告知、という段になって立ちふさがる最後にして最大の壁が、会場です。最低でも10人程度が集まれて、プロジェクターは必須、マイクや可能であれば参加者が自由に使える無線LAN環境も欲しい。となると、都内の貸し会議室では2時間で数万円という額になってしまいます。企業に所属する方であれば次に考えるのが自社設備の利用ですが、これも会社によって実現性に大きな差があり、空間はあってもその入退室管理、ネットワークの分断など主にセキュリティ上の事由により却下されてしまう場合が多々あります。例外として、既にある一定以上の知名度のある方が主催する場合、主に外資系の企業が会場を提供してくれる例もありますが、そういった方は「勉強会のつくりかた」という段階ではないでしょうから、私たちの参考にはならないでしょう。
現状、この問題に対する解決策は 2+1 つあります。
(1)「勉強会」に理解のある企業に勤める知り合いに会場確保を依頼する
(2)地域の施設や大学、特定技術の推進団体に相談する
(3)オンラインでやってしまう
ひとつめの方法を採るにあたっては、ニフティ株式会社様による「@nifty エンジニアサポート」が現状最高のサービス形態であると言えます。主催者が自社(ニフティ)社員である必要がなく、設備面でも一切の抜かりなく、前述のものに加え動画配信用の機材まで完備しています。正直、これを最初に見たときには「やられた!」と思いました。IT企業における最大の資産が人であるなら、自主的に「勉強会」を催したり、そこに足を運んだりする層の技術者に自社の名前を知ってもらう、よい印象を持ってもらえることを思えば、入退室管理やネットワークの分断に掛かるたかだかの投資など、年間を通して人材獲得に掛けているコストと比べても無視できるレベルではないでしょうか。さらに、夜間や土日、祝日の会議室はいわば「遊んでいる土地」であり、管理費用や土地代だけを無為に浪費しているとも言えます。これを有効活用しない手はなく、むしろここまで思い至ればやらないほうが不思議です。大きな会議室をお持ちの企業の特に人事や広報のみなさまには、是非一度ご検討を頂ければと思います。
ふたつめは催しものを安価にあげるのに古典的かつスタンダードな方法です。地域の公民館や区民ホールなど、専業のサービスに比べると費用面で大きなアドバンテージがあります。しかし、手続きの煩雑さや詳細な制約事項(使えるコンセントの口の数など)が、特に機器を多く用いるIT系の勉強会には不向きな面も否めません。もし伝手があれば、大学や推進団体に所属する方に相談して、場所を提供してもらうほうが設備面や制約事項の面で有利でしょう。また、いささか裏技的ですが、”同じような催し物を開催した事のある人に聞いてみる”という手もあります。案外、こちらのほうが先方ものってくれてスムーズに話が進むかもしれません。
最後の方法を +1 とした理由は、まだ前述のふたつの方法ほど確立された手法ではないから、です。そもそも場所を必要とせず、設備や参加者全員が各個に準備、そしてブロードバンド環境さえあれば誰でもいつでも主催、参加できるこの方法が確立できれば、今後の「勉強会」手法の主流になり得る可能性を秘めているのですが、この手法は致命的な欠点もはらんでいます。それは参加者同士の交流が薄れてしまうことです。「勉強会」は受講やディスカッション、ワークショップを経て自分の技術力を向上させられる事が本義ですが、散会後の歓談の時間や、懇親会での交流によって新たな人的ネットワークが形成される点も見逃せないメリットです。この点を上手く解決できるようなインフラまたはやり方の模索をはじめています。
【さいごに】
以上、Android開発入門や社内/社外勉強会のほんの少しの主催/講師経験と、数多の参加者経験を踏まえて、私なりの「勉強会のつくりかた」をご案内いたしました。いまさら私に言われるまでもなく、凄まじい速さで変化する環境に対応するため、IT技術者は常に学び続ける事を強いられる職業です。いえ、どんな職業でも学び続ける事は必要なのでしょうが、ことIT技術者においてはその必要性が顕著でわかり易いように感じます。しかし、本来学びとは発見であるなら、発見をし続けることができる職業であるとも言えるでしょう。せっかく、こんなに面白い職業に就いているのですから、ふとした疑問や発見を独り占めせずにみんなで共有することで、その喜びを何倍にも広げてみてはいかがでしょうか。