2010年度(第26年度)ソフトウェア品質管理研究会の報告
鷲崎 弘宜(早稲田大学 / 国立情報学研究所)
執筆協力:阪本 太志(東芝デジタルメディアエンジニアリング(株))
◇SQiPシンポジウム: 最新状況調査、交流、発信へ
ソフトウェア品質関係の技術や知識体系の最新研究・実践動向の把握、関連研究の効率的な把握、さらには研究会を超えた品質分野における幅広い交流促進のため、日本科学技術連盟が毎年主催するソフトウェア品質に関する大規模な会議「SQiPシンポジウム」への参加を研究会活動の1つと位置付けて、その参加と調査・交流を促進しました。また、研究や実践・調査の成果が翌年の同シンポジウムにおいて発表されることで、フィードバックを得て成果をさらに高められること、ならびに、良い成果を広く共有し業界・社会貢献へと繋がることが期待されています。実際に、2010年のSQiPシンポジウムでは2009年度の研究会成果の報告が複数ありました。
さらに2010年度のSQiPシンポジウムにおいては、各分科会の主査や副主査あるいはアドバイザが外部の方々と協力して、各分科会に関係したテーマについて少人数で議論する5つのSIG(Special Interest Group: 意見交換会)を設けました。具体的なテーマはプロセス改善、レビュー、テスト、派生開発であり、それぞれ多数の参加者を集めて盛況でした。このSIGにおける議論や参加がきっかけとなり、今後の研究会における分科会活動がより広がり深まることが期待されます。
■分科会・コース活動の一コマ
研究・実践型の分科会の様子として(図3参照)、2010年度の第1分科会「ソフトウェアプロセス評価・改善」における活動を以下に紹介します。
第1分科会ではプロセス評価・改善に関する研究を行っています。毎年継続して参加されるメンバーも多く本質的で実践的な議論が活発に行われています。プロセス改善というとレベル達成に目が行きがちですが、2010年度の研究は「プロセス品質と製品品質の相関」という議論から始まりました。どういったプロセス改善を実施する(実施しない)と製品品質にどのような影響を及ぼすのかという研究です。
メンバーのみなさまは、この研究成果を自社に持ち帰り、「プロセス改善を始めるきっかけとする」、「重要性を現場や経営層に説明する」、「不具合分析結果から開発プロセスのさらなる最適化を行う」など、それぞれの職場の課題にあわせて活用されています。このような研究成果と共に、社外の方々や専門家と議論と研究を重ねた「経験や人脈」も、参加メンバーそして所属する企業の品質向上に活かせるよう心がけています。
さらに調査型のコースの様子として、2010年度の演習コース「ソフトウェア工学の基礎」の活動を紹介します。同コースは、主に演習と議論を通じてソフトウェア工学技術群を習得する場として2005年度より継続して設置されています。産学両面に通じた講師をお招きし、全10回にわたり代表的なソフトウェア工学技術に関する講義と演習を実施しました。結果として、2010年度において既に多数の技術について活用が始められており、単なる習得にとどまらない実践と将来の実施・改善基盤の形成について一定の達成をみています。例えば参加者は、レビューの演習において習得した観点・品質特性に着目したレビューチェック項目の洗い出しを実践し、その効果を確認しつつあります。
図3: 分科会・コース活動の様子