ポジティブアプローチ
ポジティブ心理学をベースにしたイキイキした職場作りと生産性の向上の手法
一般社団法人ポジティブイノベーションセンター
代表理事 渡辺 誠
1.はじめに 今のソフトウェア開発の課題
最近、ソフトウェア開発部門の経営者や現場のマネジメントの方々からこんな事をよく聞くようになりました。
「よりよい品質の商品を低コストでしかも短期間で作る高い生産性が求められているのです。そのためには、SQCやソフトウェア開発のさまざまなツール・手法などを勉強し、専門的な技術アプローチもいろいろ取り入れてきたのですが、いま、それでは、間にあわなくなっているのです。専門技術を高度化することはこれからもやっていくつもりですが、社員一人ひとりのモチベーションを高くして、生産性を上げることはできませんでしょうか?ソフトウェアはやる気になって作ったものと、作業として漫然と作ったものでは品質が格段に違うのは、みんな分かっていると思うのです。人の心に働きかけることにより、より高いパフォーマンスを達することはできるのでしょうか?」
皆さん、とても真剣です。
こんなことができるのでしょうか?あまりにも理想かもしれません。しかし、これはできるのです。「ある役員の方は、これができたら、最後の砦かもしれないね。」と言っていました。
それを実現するにはどのようにすればよいのでしょうか?
ポジティブ心理学は「人の力を最大限に引き出すこと」を研究する学問です。1998年にアメリカから始まり、ヨーロッパに広がりました。いまは、シンガポールや中国でも盛んに研究され、応用されるようになりました。その研究成果を使った方法がいくつかあります。その中から今回はポジティブアプローチを紹介しましょう。主に、マネージャーが部下の力を最大限に引き出すという視点からご紹介したいと思います。
2.今までの考え方とポジティブアプローチ
我々が進めてきた、科学的管理法は素晴らしいものがあります。これが日本の高品質を作り出し、支えてきました。日本の誇るべき考え方であり、今産業界の中心的考え方です。
我々が作っているシステムや商品に欠陥があってはなりません。製品は、完璧に作動することで信頼性が得られます。したがって、欠陥があれば、真の原因を見つけ出し、根本的な解決策を見つける必要があります。そこで、科学的管理法に基づいた品質管理が大切になります。データを基に、なぜなぜ問答を5回繰り返して本質的な問題を見つけ、解決するのです。ソフトの現場にいる方には言うまでもありませんね。我々がとても慣れている考え方です。そして、高品質の商品を作り上げる根本的な考え方です。この考えは、製品のように完璧を求められるものに利用されると効果的です。
しかし、この手法が人のマネジメントに利用されるとどうなるでしょう。
「なぜ、できないのだ。」「本当の原因は何なのだ。」「これが欠けている、これができていない、原因は・・・」と詰めてもいい答えは出てきません。言われた人はどのような気持ちになるのでしょうか?その人の気持ちは落ち込み、自信をなくして、エネルギーが落ちます。自信が無い状態やエネルギーが落ちた状態を繰り返しつづけると、欝などの病気になってしまうかもしれません。
人は完璧ではありません。完璧でないものに対して、完璧を求める問題解決手法を適用しているのです。弱みを矯正するより、強みを使ったほうが成果を挙げるのが人間です。
そして、その強みやうまくいく仕事の仕方は人それぞれ違います。金太郎飴のように全く同じではないのです。
あまり、ここでは、テーマが異なるので詳しくは述べませんが、ポジティブ心理学で証明された事を実践している活力のある職場では、欝などの燃え尽き症候群が極めて少ないことが研究の成果から明確になっています。