~いきいき働くために、ストレスと上手に付き合おう~
株式会社プラネット・コンサルティング
代表取締役 根岸 勢津子
読者のみなさんは、心の健康と聞いてどんなことを想像しますか?そもそも心というのは臓器として存在しないだけに、なにかつかみどころがないような気がしますね。私たちは、ただロボットのように働いて自分や家族を養っているわけではなく、その時々や、場合によって様々な気分や感情を抱えながら働いているのです。
◆まじめなAさんがうつ病を発症するまで
ある事例をご紹介しましょう。Aさんは27歳の独身男性。今年5年目のプログラマです。この仕事が大好きで、やりがいをもって働いていました。両親は地方で健在、Aさんは都内のマンションに一人暮らしです。責任感が強く、まじめに仕事に取り組むので、勤務先でも評価の高い人でした。先月まで3年がかりの大きな開発案件に区切りがつき、今月からは違うチームで新規案件を担当することになりました。勤務先の場所も変わり、とても早く家を出なければなりません。
チームに入ってみると、そこにいたのはとても厳しいマネジャーと、物静かに仕事をする人たちでした。以前はプロジェクトリーダーの声掛けで、飲み会などもあったのですが、今度の職場では飲み会どころか普段の会話もほとんどありません。Aさんは新しい仕事でわからない部分を先輩に教えてもらいたかったのですが、とても聞きづらい雰囲気で、自分で調べるしかありませんでした。調べ物に手間取って毎日終電ごろまで仕事場にいるような日が続きました。何事もきちんとしないと気が済まないAさんは、毎日遅く帰宅して、急いでご飯やお風呂を済ませて布団に入るのですが、ここ1週間ほどよく眠れません。深夜3時ごろまで寝つけず、朝が来ても全く疲れが取れていないまま出勤する日が続きました。食事も砂をかむようで味がせず、特に午前中がつらくてたまりません。遅刻しながら働いていたのですが、ある日Aさんは、どうしても電車に乗っていられなくなり、途中下車したホームで1時間近くベンチに座っていました。それでもその日はお昼頃出勤して、なんとか仕事場で過ごしたのですが・・・。とうとう、ある朝、鉛を呑んだような気分で起きられなくなり、会社に電話を入れて休ませてほしいと伝えました。そして自分はだめな人間で、もう仕事はできないと思う、と話したそうです。
驚いたマネジャーが本社に連絡を取り、産業医の勧めでAさんは精神科を受診することになりました。診断はうつ病でした。その後、Aさんは半年間の休職ののち、ずいぶん回復しましたが、医師には同じ職場に戻るのは無理と言われ、比較的負担の軽い仕事から始めることになりました。
◆心の病は手遅れになる場合が多い
いかがでしょうか、典型的なうつ病のケースをご案内いたしましたが、心の病とは目に見えにくいため、手遅れになることが多いのです。風邪であれば、鼻水が出たり、微熱があったりすれば、体験的に「風邪かな?」とわかるのですが、うつ病をはじめとした心の病は、どういうものが前兆なのか、という知識がないために発見がおくれ、それに加えて治療に関する情報(医療機関や治療内容)が乏しいためになんだか敷居が高く、つい専門家に見せるのが遅れてしまった、というケースも見受けられます。
そして、もう一つの大きな理由が、心の病に対する偏見です。日本は世界の中でも精神病に対する偏見が強く、精神科にかかっていることを会社に知られたら首になってしまう、とか、変なうわさを流される、といったネガティブな気持ちが働き、なかなか精神科を受診するまでに至らない、ということがあります。そのようなことを防ぐためには、病気に関する正しい知識を持ち、予防や治療において正しい行動がとれるよう、みなさんも積極的に勉強していただきたいと思います。