人材育成…よりも、自己育成
日本電気㈱
ITソフトウェア事業本部
統括マネージャー
誉田 直美
4.宴会に出る
社内でも社外でも、人的ネットワークを作るには、宴会が一番です。最近は、社内のイベントでも、学会やシンポジウムなどのイベントでも、併設してお酒が出る交流会が開かれることがしばしばあると思います。それにはぜひ参加すべきです。そこには、ネットワークを作りたいと思っている人がたくさん参加します。皆、交流を求めて参加するのですから、人的ネットワークを作るのに最適です。
私は、まわりの人に必ず社外の宴会には参加するように言っているのですが、なかなか参加してくれません。なぜでしょうか。業務が忙しいから? イベントの日は残業がないのだからそんな日くらい早く帰りたい? おもしろくなさそう?…。理由はいろいろあると思いますが、ここは騙されたと思って、設定されている宴会には必ず参加してみてください。 お酒の席でしか聞けない話が必ず出てきます。私は、自分の人的ネットワークは、ほとんど宴会の席で作ったと思います。なんというか、お酒の席は、本音が出ますよね。きっとそれがいいのだと思います。私もきっとずいぶん好き勝手なことを言ったと思いますが、それで信頼関係を作ったことも多いと思いますよ。
また、お酒の席で重要なことが決まったりします。人事とかね。私は、自分の転機になる大きい仕事が宴会の席で決まった経験があります。どうも、指示する側も、宴会の席でもないと私が引き受けなさそうだと考えたようなのですが、私も、宴会の席でなければ、エイヤで引き受けることはなかったと思います。それは、2年もかかる大きなプロジェクトでした。その時のことを思い出すたびに、言う側も受ける側も勢いが重要なときがあるなあと思います。こんなふうに、宴会は様々な変化を生む場なのです。
5.自分の意見を一言で言う
私が人前で話すときに事前に自己チェックする点は、言いたいことを一言で言えるかどうかです。その講演で伝えたいことを一言で説明できるか、各スライドで言いたいことを一言で説明できるかを確認します。一言で説明できないときは、自分の中でその内容を整理できていません。たとえば、スライドで何行にも渡って説明しているようなときは、ほとんどNGです。ああでもない、こうでもないという自分の頭の中でぐるぐる回っている混乱状態が、そのまま書かれているだけです。文章を書く場合でも同じです。各章での主張を一言で説明できないときは、結局何を言いたいのかわからない文章になってしまいます。
私が他の人のスライドや文章をレビューするときも、そういう観点でまずチェックします。ですから、スライドの場合は一目見ればすぐに混乱しているかどうかわかりますね。タイトルが一言で表現されているか、中身がぱっと見れば目に飛び込むように表現されているかということです(これは決して、デザインとか色調の問題ではありません)。文章もしかりです。技術系の文章はそれほど難しくなくて、書くべき条件が揃っていれば、たいてい主張はわかります。
皆さんにお勧めしたいのは、常に自分が言いたいことを一言で言えるかを確認することです。それができれば、言いたいことが伝わらないということはなくなるはずです。自分の頭の中が混乱しているのか、整理された状態にあるのかも自覚できると思います。整理された状態であれば、議論の焦点は、お互いの主張を認められるかどうかに絞られるので、議論の時間は最小限で済みます。議論が長時間に及ぶのは、当事者が言いたいことをわかっていない場合が多いのです、お互いに何を言いたいのかを知るまでに時間がかかってしまいます。言いたいことを知るために、根掘り葉掘り聞くので時間がかかり、結局わかってみると、時間をかけて聞くほどの価値はなかったりするのです。自分が整理された状態にあれば、反論されても素直に受け止められるはずです。主張の違いが明確にわかるので、冷静に対処できるようになります。逆に相手のほうが混乱していると気がつくこともあるでしょう。実に生産的な時間を過ごすことができるようになります。
6.さいごに
私が自己育成として重要と思うことをまとめました。参考になれば幸いです。私たちは、出来上がってしまったら、もう店じまいするしかありません。まだ若いのに、一丁上がり状態になっている人を見かけます。一丁上がり状態というのは、自分はあるレベルに達したと勝手に思いこんでいる状態と表現すればいいでしょうか。勝手に偉い先生の立場になってしまい、回りの指導ばかりしている人です。評論家のような発言は並べ立てるものの、自分では何一つ実行できません。とても残念ですし、回りにとっては迷惑です。これは本人の意識の問題です。もっと知りたい、もっと自分の好奇心を満足させたいと思う限り、私たちは成長するものだと信じています。いつまでもそういう自分でありたいと、心から願う次第です。
以上