人材育成…よりも、自己育成
日本電気㈱
ITソフトウェア事業本部
統括マネージャー
誉田 直美
「人材育成」というテーマで執筆を依頼されました。正直なところ、人材育成は得意領域ではありません。企業で働く人間として「人材育成」はとても重要なテーマなのですが、本音では、「人材育成なんて実は関係ない、育つ人は育つ・育たない人は育たない!」と強く思っているからです。私には、「自分で自分を育成する」ことに優る人材育成は思いあたりません。そんなわけで、自分自身を振りかえって、自分の成長に良かったと思う自己育成のコツについて幾つかご紹介したいと思います。
1.本を読む
何か問題にぶつかったとき、何をしますか? 先輩や上司に聞く? インターネットで調べる? それもいいですが、私は、こんなときこそぜひ専門書を読んで調査してほしいと思います。自分の抱える問題が、有史始まって以来、初めて発生した問題だなんてことはほとんどあり得ません。間違いなく先人に同じ問題を抱えて、解決した人がいるのです。それを利用しない手はありません。
私が自己育成で最も効果があるのは何かと問われたら、本を読んで自分の頭で考えることを挙げます。読むだけでなく、自分の頭で考えて消化し、自分の意見として説明できるようになることが重要です。私はソフトウェアを専門に勉強したわけではないので、会社に入ってソフトウェアの仕事についたとき、本を読んで勉強するしかありませんでした。私が入社したころは、まだ日本語のソフトウェア工学の専門書は少なかったので、専門書を読むようになって数年もすると、たいてい見たことがある本ばかりになりました。ソフトウェアの本はこれくらいしかないのかとわかって驚いたことを覚えています。今は、ソフトウェアの本がずいぶん増えて、むしろ良い本を選別する能力の方が重要かもしれません。いずれにしても、本を読んで自分の頭で考えることくらい、自分の成長に役立つことはないと思います。なにより、知らないことを知るのはとてもわくわくすることだし、なるほどと納得することはとても楽しいですから。そして、それを単に読んで楽しむだけでなく、自分の頭で考えて、自分のものにすることがとても重要です。心から納得すると表現すればいいでしょうか、自分の頭で考えるというのはそういう感覚です。
こんな当たり前のことをわざわざ書くのは、ソフトウェア領域でこのアプローチをしている人がそんなに多くないと思うからです。たいていの場合、人海戦術や腕力で切り抜けようとしていると思います。「がんばります!」と体力で勝負する方法ですね。なぜでしょうか? 専門書を調査して問題を解決するという経験がないのかもしれません。いつも徹夜してがんばり通してなんとかしてきたから、それが当たり前になっているのでしょうか。これは、業界として危惧すべき事項だと思います。私達がそんなことをしているから、ソフトウェア技術者は5Kとか10Kとか言われてしまうのです。
先日、JaSST東京の基調講演で、リー・コープランド氏が、「最近読んだ専門書を教えてくださいと聞いて、専門書は読んでいませんと答える外科医に、手術してもらいたいと思いますか?」という表現で、本を読むことの重要性を話しておられました。確かにそうです。専門書を読まないエンジニアといっしょにソフトウェア開発の仕事をしたいとは思いません。みなさん、本を読みましょう!