派遣責任者インタビュー MHIエアロスペースシステムズ様
「当社の財産は“人”であり、ソフトウェア開発の善し悪しを左右するのも“人”です。今後も、SQiP研究会を当社の“人づくり”の一手段として大いに活用していきたいと思います!」 |
||
今年で、29年目を迎える「SQiP研究会」が5月10日(金)にスタートしました。 今年度も、90名を超える方々に参加申込をいただき、ますます盛り上がりを見せています。 そこで、昨年(2012年度)のSQiP研究会に派遣いただいたMHIエアロスペースシステムズ様の品質の総責任者、研究員の直接上司の皆様をお訪ねし、人材育成、ソフトウェア品質に関する想いなどをお伺いすると共に、SQiP研究会のよさや期待をざっくばらんにお聞きしてきましたので、ご紹介いたします。 (聞き手:日本科学技術連盟 安隨 正巳) |
取 締 役 井口 敦雄 様
品質保証グループ グループ長 平岩 修 様
聞き手:まずは、貴社の事業内容について教えてください。
井口:航空宇宙および飛昇体分野の制御システム、ソフトウェアの開発を行っています。航空宇宙分野で高信頼性を要求される高度なソフトウェアを専門に開発する三菱重工の子会社として、昭和61年に設立されました。
聞き手:そういった特殊なものが対象となりますと、求められるものも当然違ってくるわけでしょうか?
井口:はい。当然求められる品質レベルは高いものになります。そして、品質がよいことを証明する必要もあります。また、量産品ではなく、お客様の要求に応じた製品化となりますね。
聞き手:井口取締役のご担当分野をお教えください。 井口:品質保証、人材育成、技術、営業の各部門の責任者を務めています。 聞き手:ソフトウェア品質向上のために一番重要なことは何だとお考えでしょうか? 井口:やはり、“人”が重要だと考えています。 聞き手:なるほど。品質を作り込むのは最終的には人である、ということですね。 井口:はい。そうです。また、最近常々言っているのは「グッド・コミュニケーション」です。これは、「よい製品はよい人間関係から」という確信があるからです。最近、若手の技術者に、「あなたは何をやりたいの?」と聞くようにしています。やりたいこととできることは別ですが。何がやりたいのか?を明確に描かないと成長しません。また、やりたいことを実現するには、問題がどのようになっているかを5W1Hで見える化することが重要だと思っています。特に“How”です。自分がやりたいことを初心に戻って明確にすることが肝要です。 |
|
聞き手:品質重視の社風を持つ貴社で、2011年度からSQiP研究会に派遣をいただいていますね。
井口:はい。人材育成の一環としてSQiP研究会を活用させてもらっています。当社では、プロセス改善活動を実施していますが、それだけでは絶対に会社を変えることはできません。やはり、“人”が変わらないとダメなのです。そのための若手リーダーを育成したいと思っています。
聞き手:では、この研究会をお知りになったきっかけは何だったのでしょうか?
平岩:さかのぼると、1997年頃に我が社から2名参加していたのですが、たしか私が参加を推薦したのだと思います(笑)記憶が怪しいのですが。その後、私が親会社に出向となり、戻ってきて、ふと研究会の存在を思い出したのです。
聞き手:何か運命的なものがあるかもしれませんね!
平岩:はい。そうかもしれません。戻ってきた当時、会社のQMSシステムを変えるミッションを持っていて、外に目を向ける必要性を感じていたのです。そこで、私自身が参加者として申し込みました。それが2011年です。実は研究会の中身はよく知らないで申し込んだのですがね…。(笑)
聞き手:まずは、平岩さんが参加をされたわけですね。実際に参加されてみていかがでしたか?
平岩:お世辞抜きで本当によかったです。特に、一番は人脈が構築できたことでしょうか。今でも当時のメンバーとは連絡を取り合っています。いろいろな形で交流をしていて、自己の業務にも大いに役立っています。例えば、当社は自動車関係の仕事も一部やっているのですが、ISO26262などは、それを専門に行っているメンバーの方にいろいろと教えてもらいました。
聞き手:他に平岩さんが感じられたSQiP研究会のよさがあればお願いします。
平岩:企業の生の声が聴けることですかね。公にするかどうかは別として、自分たちで体験できることが聴けると共感が得られます。特に、当社は航空宇宙という限定された世界ですので、なおさらです。
平岩:また、研究会参加メンバーには若手の方も多いのですが、その人たちの価値観、見方が私の年代と違うことに気が付きました。これは発見でしたね。
聞き手:毎回の例会終了後も、分科会メンバーでよく飲みに行かれたりしましたか?
平岩:はい。もちろん毎月飲み会をやっていました。(笑)それがまたいいんですよ。問題意識が共有化されているからお互いに話しやすいこともありますね。また、研究会の参加者は、いろいろなことをよく知ってますよ。やはり、15万円の参加費を会社が負担して、派遣してくる方々ですから、当然なのかもしれませんが…。
聞き手:平岩さんご自身が参加された翌年、部下である山口友紀さんにご参加をいただきました。 平岩:はい。彼女自身は本当に意欲と向上心が高く、派遣するにはうってつけの人材と考えました。 聞き手:その山口さんは非常に熱心に参加され、成果発表会では、山口さんの所属した研究グループが「最優秀賞」を受賞され、山口さんはその発表役を務められました。 平岩:はい。素直に嬉しく思います。 聞き手:一方、通常業務を持ちながら、月に一度参加されるわけです。また、会社のある愛知県から毎回出張として参加されていました。そのあたりの苦労もあったのではないでしょうか? 平岩:品質保証グループは5名で構成されています。決して、多くはない人数ですので、SQiP研究会参加により定期的に業務を外してしまうことになり、その分業務が集中してしまいました。また、小さいお子さんがいることもあり、責任感の強い彼女自身、ややへこんでしまった時期もありました。 聞き手:そんな時期もあったのですね。それを山口さんはどう乗り越えたのでしょうか? 平岩:SQiP研究会への参加を優先できるよう、業務の負担軽減をしました。それから、少し変わったように感じています。 聞き手:そうだったのですね。SQiP研究会では、よりよい研究活動を行うために、毎月の定例会に出席するだけなく、臨時会を行って別途議論の場を設けたり、分科会ごとにメーリングリストが用意され、オンラインで議論や作業を行っています。山口さんが所属していた第3分科会ではメールの量が三千通を超えていたことはご存じでしたか? 平岩:そんなに多くのメールのやりとりがあったのは知りませんでした。結果として、課題解決に結びついたり、通常業務が楽になることを考えるとモチベーションが保たれた部分もあったのかなと思います。 |
|
聞き手:受賞という高い評価の裏には、上司としてのいろいろな配慮が裏ではあったことを知りましたが、一年間の参加により、山口さんの成長を感じましたか? 平岩:はい。それは感じます。まずは、ものの見方が広くなりました。これは参加の成果でしょう。しかし、逆に広くなり過ぎて、“自社流”の部分が薄くなってきてしまっている感じもします。外に目が向き過ぎていますが、自社流にカスタマイズしてどう効果を生み出していくかが課題ですね。 聞き手:よく“視野を広げて!”と言いますが、実行するのはなかなか難しいことですよね。 平岩:また、SQiP研究会での成果を社内展開するため、レビューに特化した社内勉強会のリーダーを務めてもらう予定です。実は、各部門でレビューをそれぞれ特色持って独自路線で進めているのですが、そこを“よいところ取り”することを狙っています。視野が広くなった彼女ならそれができるのではと期待しています。 聞き手:社内で表彰も受けられたようですね。 平岩:SQiP研究会での成果が認められ、「年間表彰」(各部から社表彰)受けました。社長から直々に表彰状を受け取ったんですよ。これは、品質部門としてははじめての受賞です。 聞き手:その他にも何かSQiP研究会後の変化がありますか? 平岩:個別には、各所からレビューに関する相談に乗って欲しい!という声がかかっています。私も各部門に「遠慮なく相談して欲しい」と投げたこともありますが。また、社内研修の講師を4~5年やってもらっているのですが、内容がブラッシュアップされていると期待しています。 |
|
《参考》
◆最優秀賞を受賞した、山口さんが所属する第3分科会(ソフトウェアレビュー) 陸グループの発表内容
テーマ:「重大欠陥を効率よく検出するレビュー手法の提案と有効性の実験報告 - 「レビューの繰り返し」と「振り返り」が生み出す品質効果 -」
概要:1回のみのレビュー(One Time Review法)と総時間は同程度として1回のレビュー時間を短くし、都度重点項目を決め、振り返りを行いつつ、繰り返し継続的にレビューすることで、時間あたりの重大欠陥検出率とレビューアのスキルを向上させる効果を持つ、継続的レビュー法(Continuous Review法)の提案を行ったものです。
聞き手:貴社の品質へのこだわりについてもお聞かせいただけますでしょうか?
井口:当社の事業領域である航空宇宙分野は、開発プロセスを常に問われています。言い換えれば、プロセスで品質を作り込む、ということでしょうか。計画レビュー、開発レビュー、検証レビュー、最終レビュー、といった「プロセス保証」です。
聞き手:工程で作り込むわけですね。まさに品質管理の真髄ですね。
井口:また、プロセス保証に関連しますが、近年求められているのは共通化、標準化といったしくみづくりです。ツールも含めて履歴管理をしっかりと残しながら、その部分を教育で徹底しています。
聞き手:“品質管理は教育に始まり、教育に終わる”という格言がありますが、教育も繰り返し行われているのですね。
井口:ただし、これは当社だけではやりきれません。取引先を巻き込みながら実施して行く必要があります。そのためには、社内を引っ張る若手層のリーダーも必要です。その手段の一つとして、SQiP研究会に派遣しています。
聞き手:ありがとうございます。今後もSQiP研究会は、お客様の声を反映しながらますます進化をしていきたいと考えていますので、今後のSQiP研究会にご期待ください。
本日は、ありがとうございました。