特別企画 SQiP講演会「今求められる、中堅ソフトウェア技術者の人材育成」ルポ
財団法人 日本科学技術連盟 SQiP事務局
1.【講演】「今求められる、中堅ソフトウェア技術者の人材育成~次世代を担うエンジニア~」
(有)デバッグ工学研究所 代表 松尾谷 徹氏
デバッグ工学研究所代表の松尾谷徹氏から以下のアジェンダに基づいて講演が行われました。
① 人材育成に関する論点
② 中堅技術者の現状スキル
③ 経験偏重スキルからの脱却
④ 今後、求められるスキルとは
⑤ 中堅技術者育成:今期の試み
⑥ 論点のまとめ
ソフトウェア技術者がどのようなスキルを習得しているか、また、そこにある問題点は何か、その解決の糸口として求められる技術者のスキルや育成方法はどうあるべきか、ということが重要な論点であると強調されました。要旨は以下の通りです。
現在のソフトウェア開発技術は2つに分かれており、1つはスタッフが持つ知識的スキル(スタッフ系スキル)である。もう1つは現場の実務的スキル(現場系スキル)である。
スタッフは管理技術が中心である。固有技術についても専門知識を習得しているが、それは紙面上の知識というべきものであり、応用力がない。そのため、現場からは役に立たないことを押し付けてくるととられることが多い。スタッフ系スキルは主に学習で習得することができるが、なかなか実務に結びつかないことが多く、下手をすると事業貢献の低下につながる恐れがある。
一方、現場は自分の経験に基づく固有技術を保有するが、理論に裏打ちされたものではなく、仕事が変わると全く役に立たなくなる。つまり、現場系スキルは主に経験で習得することができるが、理論と結びつかない特定実務を対象とするものが多いため、応用力は高めることができない。
現在は、二極化したスキルを持つ人材構成になっている。その考えられる原因は2つある。
1つは現場側(ライン側)における問題として、5ゲン主義の「原理」「原則」が欠如し、狭い「現場、現物、現実」になったしまったということと、体系化されたOJT/OJDで習得したものではなくなってしまい、職場での育成力が死滅状態になってしまったことである。自分の経験した狭い製品固有技術が主になり、特定の経験に依存したスキルであるために、システム環境が変わると、応用力が低くなってしまうのである。
もう1つは、技術面で現場支援する立場のスタッフ側における問題として、5ゲン主義 の 「原理」「原則」が先行し、「現場、現物、現実」から逃避してしまったことである。1990年以降、スタッフ部門がの誕生して、品質保証(ISO9000)、生産技術(メトリックス、見える化)、プロセス改善、ITSSなど、管理技術の習得・導入が行われた。しかし、固有技術に対する先輩のスキル不足から、そのOJTはそもそも存在しなかった。ここでもやはり育成できる人材が不足していたといえる。
今後、現場側では経験偏重のスキルから脱却し、知識と実践の橋渡しとなる人材育成が必要になる。
自分の経験偏重から脱却するプログラムとしては、
①実務の問題として、その全体像を知ること、
②その問題を構造的に捉え分析すること、
③先人や他者の知恵/成功からプラクティス(技法)を選択すること、
④メンバーとの課題共有し、説明できる実務技術のリーダーシップを持つこと、
が重要である。
昨年度のモダンソフトウェアテストアカデミー(MTA)は、現場の問題を分析して課題及びその解決策をモデル化し、さらにそのモデルを具現化して現実モデルを構築するアプローチで課題解決策を立案した。これは、1990年代から欧米で実践されてきたモデリングによるアプローチの実践であったが、実際には参加者による自分の課題のモデリングは簡単には進まなかった。今年度のMTAは、過去の成功プラクティスを示し、受講生がそのパターンと自分の課題を照らし合わせて、自分の課題にもっとも類似した解決策を選ぶことができるようにする。実務により近いところにある技法等の選択を行って、解決策を組み立てることで、より早く課題解決への道を見つけることができるようにする。
また、中堅技術者の現実的な育成について意見交換や情報共有する研究会を立ち上げることを考えている。
以上のように、ソフトウェア技術者が、職場経験に頼ったスキルや、実務と遊離した知識しか持たないという問題に対して、育成の場をつくることが一番重要であると同時に、組織力がビジネスの優劣を決定する中で、応用力の人脈を社内・社外問わず必要であることを聴衆に伝え、講演を締めくくられました。