特別企画 SQiP講演会「今求められる、中堅ソフトウェア技術者の人材育成」ルポ
財団法人 日本科学技術連盟 SQiP事務局
2.【2010年度「モダンソフトウェアテストアカデミー(MTA)」セミナー修了生による成果の紹介】
(1)課題抽出のための業務可視化手法の提供
(株)インテック 技術部 藤井彩乃氏
インテックの藤井彩乃氏から、昨年、モダンソフトウェアテストアカデミーに参加され、その成果を紹介いただきました。藤井氏は、開発技術部の仕事はスタッフとして、開発部門と情報を共有し、要望を聞き、それに対して、支援、研修などの協力をし、その中で、開発部門の抱える課題を解決すること、将来を見据えて先見的な施策を展開することを業務としています。
これまでの業務において、開発部門の課題を聞いてその解決策を提案・提供してきましたが、効果検証ができないため、解決策の効果を把握できず、開発部門の真の課題が本当に把握できているのかという疑問が生まれました。このため、納得感のある効果的な施策の提案のために何をすればよいのかを、このMTAの課題として取り組まれました。
MTAの講義の中で、DFDが業務プロセスの明確化にも役に立つことが分かり、それを適用して職場の課題解明に適用しようと決め、自身と同じ部門のメンバーがツールを開発部へ普及させようとしたのですが、なかなかうまくいかず悩んでいたので、その背景をもとにDFDを使って分析されました。
その分析をするまでは、ツール普及が進まないのは開発部門が意欲に欠けているが原因と考えていたとのことでしたが、分析結果から、ツール使用のノウハウが特定部門に偏り、そのノウハウが共有できていないために普及が滞っていることが認識できたそうです。また、ノウハウの普及にスタッフが関係していないことが問題と分かったため、今後、何をやるべきかが明らかとなったそうです。ヒアリングの被回答者からも、DFDの理解しやすさが評価され、今の課題(まず取り組まなければいけない課題)を掘り下げて考えられるようになり、成果物が何かのインプットになるような活動が必要であることが明確になったとのことです。
業務の可視化による効果として、説明者が自分のやろうとしていることを他の作業との関係で整理・評価し直すことができるとともに、他者が疑問提示、アドバイスをしやすくなることが挙げられます。したがって、今後、可視化手法として、DFDと他の方法を比較評価しながら支援作業のツールとして活用していくとのことでした。
(2)機能単体テスト(仕様ベースのブラックボックステスト)の効率化
伊藤忠テクノソリューションズ(株) 開発技術推進部 標準化・品質向上推進課 山本 徹氏
続いて、同様に昨年、モダンソフトウェアテストアカデミーに参加されました伊藤忠テクノソリューションズの山本徹氏から、その成果を紹介されました。
山本氏が携わる、自社の開発プロジェクトでは、自社と委託先による協業により複数のテストを段階的に実施しています。「機能単体テスト」(仕様ベースのブラックボックステスト)では、これまで、機能単体テストはチェックリストによる手作業ベースのテストが中心となっていました。
しかし、顧客のシステム化業務機能の高度化・複雑化に伴って、テストケース数が増大の一途をたどり、委託先にて期間内にテストを終了することができなくなってきました。それにより、自社に受入後も「機能単体テスト」のバグが頻発し、テスト工程に手戻りが発生するケースが多く見受けられたそうです。
問題を考察すると、機能の組合せテストケース設計は開発担当者の経験則にゆだねられており、効果的な組合せ法が研究されていないことにあることが分かってきました。この解決策として、組合せの合理的方法が世の中にあることをMTAの講義で知り、さらにその利用法を習得しました。
組合せ方法にはAll-pairとHAYST法があり、それぞれのメリット、デメリットを検討してAll-pairを採用しました。具体的には、フリーソフトツールJennyを使って機能の組合せを作成し、さらにそれをチェックリストに展開するツールを開発しました。これによって、外部委託する際にも効率的なテストを依頼することができるようになったそうです。今後、禁則に関する指定方法の明確化、All-pair利用箇所の標準化などを実施するとのことです。
その定性的な効果としては、以下の3つが挙げられました。
①組合せテストの標準化による属人性の排除、
②自社/パートナーとの合意形成の確立、
③自社への受入基準の明確化
また、定量的な効果としては、最小限のテストケース数で効率的に機能単体テストのバグを摘出できたそうです。
成果紹介後、2つほど質問が出ました。
Q1:テストケース数をAll-pairで削減した結果、実際のテストケース数が足りなくなることはなかったのか?
A1:試行の結果ではそのようなことはない。これから本格展開して確認する。
Q2:MTAの成果は何か?
A2:講師と自分の課題を共有し、解決策を検討できたこと。