すべてのソフトウェア開発者におくる:ソフトウェア品質シンポジウム2011
株式会社東芝
小笠原 秀人
クロージングパネル
テーマ: 「これからのソフトウェア品質エンジニアリング」
司会: 吉澤 智美氏(日本電気(株))
パネリスト:栗田 太郎氏(フェリカネットワークス(株))、笹部 進氏(元日本電気(株))、
細川 宣啓氏(日本アイ・ビー・エム(株))、山浦 恒央氏(東海大学)
アドバイザ:前村 孝志氏(有人宇宙システム(株))
今回のパネルのお題、”ソフトウェア品質エンジニアリング”というのは、ここでは品質工学とは区別し、現在正式な定義はない造語です。それを使って、パネリストには、ソフトウェア品質エンジニアリングはどうあるべきか、ソフトウェア品質エンジニアはどのような役割となるかを考えてもらいました。
パネリストは、ベテラン、中堅の品質のエキスパート、論客をそろえました。また、アドバイザとして、特別講義でご登壇いただいた前村氏に参加していただきました。その闊達な議論から、品質の本質と、それに取り組むエンジニアリングとは何かを共有していくことが狙いでした。この難しい議論を捌くのは、司会の吉澤 智美氏(日本電気(株))でした。
このパネルは、各パネリストの品質に対する価値観をあらわにしていきました。議論は多岐にわたり、示唆に富む話題がやりとりされ、聴衆にとっては大変濃い内容で、あっという間に時間となりました。その中で、ソフトウェア品質をエンジニアリングしていくためには、仕掛け仕組みが必要だという議論が興味を持ちました。私個人として心に残ったのは、栗田氏の言葉で、エンジニアの技能は、エンジニアリングの基本を押さえること、その内側では、さまざまなセオリーをオーソドックスに押さえていくこと、というものでした。
このパネルがよかったことは、アンケートの結果にもよく表れています。最後に、前村氏の、“品質は人に依存するのだな、作った人を信じるしかない”という言葉が印象的でした。
表彰
SQiPシンポジウムでは、2つの表彰があります。今年度は下記のお二人が受賞されました。
■SQiP Effective Award - 実践的で、現場で品質向上にすぐに役立つ発表
「組み合せテスト技術の導入・定着への取り組み、および上流設計への適用検討の事例」
中野 隆司氏、小笠原 秀人氏(以上、株式会社東芝)、松本 智司氏(東芝メディカルシステムズ株式会社)
■SQiP Future Award -将来役に立つ可能性を秘めた発表
「間接的メトリクスを用いて欠陥予測を行うレビュー方法の提案
―欠陥の位置と種類の特定によりレビューの効率と効果を向上―」
中谷 一樹氏(TIS株式会社)、2010年度SQiP研究会 第3分科会
併設チュートリアル
シンポジウムの1日目、13時~17時に開催される半日集中講座です。シンポジウム本会議とは切り離して、気軽に一流講師の講座に参加できる機会です。基本の本質を学び、見つめなおす場として今年度は下記の7テーマで開催しました。今年度は、昨年度を上回る180人の方が受講しました。
黒岩 雅彦氏
(日本電気(株) 品質保証部 エバンジェリスト)
佐々木 方規氏
((株)ベリサーブ 検証品質保証統括部 統括部長)
清水 吉男氏
((株)システムクリエイツ 代表取締役)
中谷 多哉子氏
(筑波大学大学院 ビジネス科学研究科准教授)
野中 誠氏
(東洋大学 経営学部 准教授)
(最高品質事例のご紹介と現場状況の解説とストーリー立案の実体験)」
三井 伸行氏
((株)戦略スタッフ・サービス 取締役 エグゼクティブコンサルタント CTO/
NPO法人 ドットNET分散開発ソフトピア・センター テクニカルオフィサー)
森崎 修司氏
(静岡大学 情報学部 情報社会学科 助教)
私自身は、黒岩氏の「今日明日の業務で使えるなぜなぜ(人重視マネジメントの考え方)」に参加しました。最近では、不具合管理システムが普及し、多くの開発現場で不具合情報が管理され蓄積されていると思います。欠陥は改善の宝の山と言われますが、実際には、検出された欠陥からタイムリーにプロジェクトにフィードバックができているかどうか、ということについてはまだまだ不十分だと感じていました。黒岩氏は、なぜなぜ分析の種類には以下の2つがあり、プロジェクトにタイムリーにフィードバックするには、品質保証型のなぜなぜ分析が必要という説明をされました。
● 品質保証型(小さいなぜなぜ・実行型)
インシデント起因であり、数値分析との組み合わせにより、品質のみでなく、コストカットを目的に行う。本来は出荷前の各開発工程において実施する。
● 振り返り型(大きいなぜなぜ・反省型)
失敗プロジェクト向け等、大きな課題に対して要因分析と過去の情報整理を基に、個々に掘り下げを行う。
なぜなぜ分析の課題は、「誤って、振り返り型のなぜなぜ分析をインシデント起因に使用している組織が非常に多い」と述べています。振り返り型はインシデントに起因するものではなく、問題組織に起因させ、ブレーンストーミングやfact(事実)確認等、反省会形式で風土作りや反省、教育を目的として実施することを基本とすべきとの説明がありました。
なぜなぜ分析の方法として大きく2つのやり方があるということ自体が新しい気づきでした。不具合情報は蓄積して分析するもの、という固定観念に縛られすぎているのかもしれません。開発の場で、ぜひ実践してみたいという気にさせてくれたチュートリアルでした(早速、社内に持ち帰り、不具合分析に関するワークショップを社内で開催しました)。
さいごに
1997年から5年間にわたりシンポジウム委員長を務めさせていただきました。このシンポジウムを、ソフトウェア品質に関する、日本、アジアからのは発信拠点としたいという思いを持ち、“リズム”と“場”を意識して進めてきました。リズムに関しては、毎年9月上旬に実施することにしました。また、場としては、東洋大学(今年は早稲田大学)で継続して実施しました。この5年間で、ソフトウェア品質に関するイベントは“SQiPシンポジウム”という認識がだいぶ広がってきたと思います。残念ながら、アジアからの発信拠点という点ではまだまだ力不足のところがありました。この3年間の集客状況を下図に示します。多くの方々に参加していただいたことに感謝いたします。また、論文投稿数も毎年40~50件となっています。自分たちの成果ややってきたことを論文としてまとめ、それを発表しフィードバックをもらえる場として多くの方々に活用していただきました。多くの開発現場で、自分たちのやってきたことを論文としてまとめ発表するという活動が活性化することを願っています。
来年からは、シンポジウム委員長を静岡大学の森崎先生にバトンタッチします。このシンポジウムが、「今」のソフトウェア開発者のみなさまの現状を少しでも良くしていくための一歩となるよう、来年も企画をしていきたいと思います。みなさん、来年も論文応募、どうぞよろしくお願いいたします!