すべてのソフトウェア開発者におくる:ソフトウェア品質シンポジウム2011
株式会社東芝
小笠原 秀人
はじめに
ソフトウェア品質シンポジウム(SQiPシンポジウム)2011は、2011年9月7日(水)~9日(金)に、早稲田大学の西早稲田キャンパスで開催されました(初日の9月7日は、併設チュートリアルを開催)。ここ数年参加者数が増加傾向にありますが、今年も、併設チュートリアル約200名、本会議350名を超える方々が参加され、3日間で有料参加者だけでも延べ900名が来場しました。招待者や関係者を合わせると1000名をゆうに超え、大変な盛り上がりを見せました。
SQiPシンポジウムは、日本で最大級のソフトウェア品質に関する会議です。ソフトウェア開発に関わるさまざまな方々が一堂に会し、各所で実践されてきた現場で役立つ技術や経験、ノウハウ、研究成果を発表し意見交換を行う場です。このシンポジウムをとおしてソフトウェア開発に関わる全ての開発者のみなさんに、日々のさまざまな問題を解決するための“最初の一歩”を提供したい、参加者のみなさんそれぞれに「何か」を持ち帰っていただきたい、そんな思いを企画に込めました。私は、1997年から5年間にわたりこのシンポジウムの委員長を担当させていただきました。本報告では、SQiPシンポジウム2011の概要を紹介するとともに、この5年間を簡単に振り返ってみます。SQiPシンポジウム2011の概要のうち、基調講演、企画セッション、特別講演、クロージングの紹介は、このシンポジウムのプログラム委員でもあるソニー株式会社 永田 敦氏の「日科技連ニュースNo.98[2011年11月号]『Report ソフトウェア品質シンポジウム2011』」からの原稿を引用させていただきました。
この会議の実施報告、受賞発表の紹介、論文/講演資料などは、以下のサイトから参照できますので活用してください。
http://www.juse.or.jp/software/327/
基調講演
ソフトウェア工学の分野では最も歴史があり、権威のあるICSE2011(International Conference on Software Engineering)で基調講演をされた(株)SRA 先端技術研究所 所長 中小路 久美代氏にご登壇いただきました。
テーマは、「ソフトウェアにおける作るモノの世界と使うコトの世界」でした。
これは、インタラクション・デザインについての内容でした。いままで、作るモノ自体にこだわっていたことから、使うコトを考えて作り上げていくことを提唱しています。
インタラクション・デザインは、ユーザビリティ・インタフェースデザインとは違います。ユーザビリティはスタティックなものですが、中小路氏は、もっとダイナミックなユーザとの相互作用、インタラクションを考えています。それをどのように表現するかとか、モデリングやそのためのツールなどを研究されています。スマートフォンなどのインタラクティブな操作から、画面の動きで重さや力を感じるなどの事例を紹介されました。これらは、そのほとんどをソフトが行います。これらをどう開発するかばかりでなく、要求としてどう表現するか、テストをどのようにしていくかなど、課題を考えさせる素晴らしい講演でした。
一般発表
今年は、26件の発表がありました。3月に東日本大震災があり、論文を投稿すること自体、難しい状況もあったと思います。このような中、本当にたくさんの応募をいただきました。この場をお借りしてお礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。来年のSQiPシンポジウムもぜひ、よろしくお願いします。また、昨年度のSQiPシンポジウムFuture Award、Effective Awardを受賞された纐纈 伸子さんと大立 薫さんをお招きし招待講演も行いました。
● 2010年度 SQiP Future Award 受賞
「メトリクスの効果を生かすための利用方法とは?」
纐纈 伸子氏((株)日本電気)
● 2010年度SQiP Effective Award 受賞
「設計者自身による設計品質作り込み ―テストエンジニア視点の活かし方―」
大立 薫氏(ベックマン・コールター(株))
ひとつひとつ全部はご紹介できませんが、発表資料は冒頭で紹介したWebに掲載していますので、ぜひ、ご覧になってみてください。
企画セッション
企画セッションは、SQiPシンポジウム委員会が提供するセッションです。各時間帯に1セッション、2日間で4つのテーマを企画しました。
講演者: 鈴木 三紀夫 氏((株)TIS)
モデレータ: 堀 明広 氏((株)NTTデータMSE)
パネリスト:三井 伸行氏(同上)、天野 勝氏(永和システムマネジメント(株))、
永田 敦氏(ソニー(株))、湯本 剛 氏(日本ヒューレット・パッカード(株))
司会: 小井土 亨氏((株)OSK)
- 東京証券取引所 arrowhead 開発のユーザ側、ベンダ側双方のプロジェクトマネージャに聞く -」
進行・ファシリテーション: 脇谷 直子氏(広島修道大学)、森崎 修司氏(静岡大学)
《第1部》「 品質保証プロセス進化論―品質保証部長が考える、ここがポイント!?」
齊田 奈緒子氏((株)ネクストジェン)
《第2部》「品質保証部門最前線 オジサンたちも悩んでいる PartⅡ」
千綿 洋一氏((株)ニコンシステム)
《第3部》「やっぱり上流からでしょう―要件定義の失敗に学ぶ品質保証への取り組み―」
向山 正秀氏(永山コンピューターサービス(株))
ここでは、「3. 品質がもたらすソフトウェアのビジネス的価値」についてご報告します。
これは東京証券取引所 arrowhead 開発のユーザ側、ベンダ側双方のプロジェクトマネージャをお招きしての講演でした。arrowheadはいくつかの講演会ですでに取り上げられていますが、今回の講演では、現場の指揮を直接取ったプロジェクトマネージャの講演ということで、注目されていました。東京証券取引所の宇治 浩明氏および、富士通(株)の三澤 猛氏から、現場の熱気が伝わるほどのお話しが聴けました。ユーザ側の品質に対する責任の持ち方とこだわりにベンダ側が真正面に取り組んだことが、このプロジェクトを成功させたと強く思いました。