論文を書くことの大切さ(2)
株式会社システムクリエイツ
代表取締役 清水 吉男
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◆ はじめに ◆
これまでの2年間SQiP研究会の分科会(注)で研究員と向き合って、問題の分析や課題の掘り出し、解決方法を考えるといった活動をやってきました。その活動のなかで、彼らは大きく変化し成長していくのを目の前で見てきました。 今回は、SQiP研究会分科会における活動の意義や、その活動のなかで研究員がどのように変化し、成長して行くかということを紹介します。
注:ソフトウェア品質管理研究会(URL: http://www.juse.or.jp/software/28/)のメイン活動で、希望の研究テーマごとに分かれて指導講師と共に該当テーマについて深く検討、討論する。2011年度は6つの分科会と3つのコースがあり、筆者は第6分科会 派生開発の主査を務めている。
◆ SQiP研究会への関わりのきっかけ ◆
2009年にSQiP研究会の分科会に「派生開発」という部会が新設されたのを機に、当時の主査の足立氏から私に手伝って欲しいということで声がかかりました。その頃、私は「派生開発」という呼称で「XDDP(eXtreme Derivative Development Process)」という方法を中心にプロセスの改善活動をしていました。これがSQiP分科会との関わりの始まりです。但し、SQiP研究会の分科会活動についてよく知らなかったので、最初は「アドバイザー」という立場を用意してもらいました。
SQiP研究会には「分科会」と「演習コース」の2つがあり、分科会は終了時に「論文」を書くことになっています。私としては派生開発の場面における問題に対して技術的なアドバイスはできると考えていましたが、分科会の進め方や論文の指導はやったことがなく、1年目は主査、副主査の皆さんの指導を横で見させてもらいました。そうしてお手伝いしているなかで、私自身が若い頃に情報処理学会の論文を真似て、論文らしいものを書きながら問題を解決してきたことを思い出したのです。「30年前の自分自身の行動がこんなところに繫がってくるんだ」というのがそのときの感想でした。
◆ 自由な発想に気付かされることも ◆
派生開発の領域で生じている問題を解決するためのヒントになればということで、「派生開発」の分科会では最初に4〜6時間を使って「XDDP」の説明をしています。
あるとき、課題抽出を経てその対応方法を検討するなかでXDDPの「部分導入」が検討されました。XDDPを導入する際に、それまで私自身は「変更要求仕様書」「TM(Traceability Matrix)」「変更設計書」の「3点セット」の「一括導入」を勧めてきました。部分導入となると、現状の成果物とうまく繋がらなければなりません。
それまでの私のコンサルティングのなかでは部分導入で成功した事例がなかったので、思いとどまらせるべきかどうか一瞬とまどいました。この時の主査である足立氏も、チームが部分導入を検討していることに対して不安な様子で私の顔を見ました。足立氏も私の本を読んでいて一括導入が頭にあったようです。
チームは今、私の目の前で部分導入の方法を検討しています。思いとどまらせるのであれば「今」止めなければなりません。 彼らがボードの前に集まって議論している様子を見ながら、
・これまで私自身がコンサルティングの場で見てきた組織は、「統制」とはほど遠い状態であり、なかには無法地帯に近い組織もありました。そのような状況では「部分導入」してもまともに繋ぐもの(プロセスや成果物)がなく、一括導入しか選択肢がない。
・それに対して、分科会の彼らが所属する現場は、たしかに派生開発に対して不適切なプロセスに起因する問題(バグなど)は出しているものの、作業そのものは標準プロセスの下でしっかり統制がとれている。そういう状況であれば部分導入も可能かもしれない。
と考えるに至りました。
彼らはXDDPに対する先入観もなく、自分たちの所属する現場へのXDDPの導入障壁を低くするために部分導入を検討したわけですが、逆に、私のほうがそれまでの経験から先入観を持っていたことに気付かされました。
たしかに、コンサルティングの場で目にするのは、どこも同じように混乱した状況でした。でも、現実に派生開発の問題の解決に取り組もうという組織は、すべてがそのような混乱した状態とは限らないわけです。